仙台育英、甲子園準Vバッテリーの矜持 佐藤世那と郡司裕也の春夏秋冬
悲願を逃した“あの一球”の反省生かす
夏の甲子園、U−18W杯を通じてバッテリーを組んだ佐藤(左)と郡司 【写真=BBM】
悲願の“白河の関越え”は果たせず、「本当に東北の方たちに申し訳ない」と佐藤は涙を流し、甲子園を去った。それから3日後の8月23日。佐藤と捕手・郡司裕也は、U−18ワールドカップ(W杯)の日本代表合宿のため、再び大阪入り。「日本一になれなかった悔しさを世界一を取って晴らしたい」(郡司)。2人の活躍の場は早々に訪れる。
1次ラウンド第2戦、大会連覇中の米国との一戦。「タテの変化球が有効かなと思い」と西谷浩一監督は、フォークが武器の佐藤を先発マウンドへ送り出す。受ける捕手は郡司だ。 試合は、序盤から佐藤のフォークがさえわたる。2回にはフォークを決め球に3者連続三振を奪うと、5回一死満塁のピンチでは、フォークで二ゴロ併殺に。以降も快投は続き、「代えようと思うところがなかった」(西谷監督)と、最後までマウンド上に佐藤が立ち、5安打9奪三振でシャットアウト。
「あの(甲子園の決勝)ときの反省もあったので、終盤も腕を振ることを意識しました」と佐藤。捕手・郡司についても「気を遣うこともないし、自分の状態も分かってくれている。そういった面で本当に投げやすかったです」。
ただ、満足はしなかった。翌日に試合の映像をチェック。「逆球が多くて、結果的にラッキーな部分もあった」(佐藤)。それでも、“あの一球”の反省から、腕を振ったからこそ「ストレートの威力がいつも以上にあったと思う。だから狙ったところに行かなくても空振りをしてくれた」と自信を深めた。痛恨の一球が、131球の完封劇を呼び込んだ。
「フォーク」という球種で深まった信頼
W杯1次ラウンドの米国戦では5安打完封勝利など、活躍を見せた佐藤 【写真=BBM】
「最初のどん底」は昨夏の宮城県大会。4回戦に3番手として佐藤がマウンドに上がると、同時に郡司がマスクをかぶる。延長戦までもつれた試合は、13回表に一発を浴びて、4対5で敗退。先輩の夏を終わらせてしまった。
「自分の武器はフォークなのに自信を持ってフォークを投げられていなかった」と振り返る佐藤は、新チーム結成からフォークに磨きをかけた。
落差を増したフォークは相手バットが面白いように空を切る。秋の県優勝を果たすと、東北大会も制覇。さらに神宮大会の頂点まで駆け上がった。
“秋の日本一”を手にしたが、受ける郡司は四苦八苦していた。「秋はフォークをしっかり捕れず、ポロポロしていました。アイツ(佐藤)は、何も言いませんでしたが」。 だからこそ、「しっかり捕らなければ」と感じずはいられなかった。冬にショートバウンドの捕球練習を繰り返すと、春を迎えるころには、正確に捕球できるようになった。胸に当てて前に落としても「冷静さが武器」と自負する郡司は、落ち着いてボールを拾って一塁へ送球。暴投を避けるため、フェアグラウンドの中に深く入って送球する姿は、佐藤のボールをムダにしないという意識を物語る。「フォーク」という球種で2人の信頼は深まっていった。