追いつめられたオランダの重大な欠点 ユーロ出場には「奇跡が必要」

中田徹

クラブレベルでも同じ現象が見られる

ナイーブなのは代表チームだけではない。クラブレベルでも同じ現象が見られ、勝負弱さを露呈している 【写真:ロイター/アフロ】

 かつてベルト・ファン・マルワイク監督(現サウジアラビア監督)はマルク・ファン・ボメルとナイジェル・デ・ヨングというハードワークを売り物にするMFを守備的に置き、ユーロ2012では機能しなかったものの、10年のワールドカップ(W杯)では準優勝という結果を残した。その4年後、今度はルイ・ファン・ハール監督(現マンチェスター・ユナイテッド監督)が5バックシステムを採用して、W杯3位に導いた。しかし、独自の攻撃サッカー観があるKNVB(オランダサッカー協会)は、とりわけファン・ハールの5バック戦術を潔しとせず、フース・ヒディンクにホーラント・スクール(オランダ派サッカー)の再建を託した。

 ヒディンク本人は「ホーラント・スクール2.0を実現する」と息巻いたが、イタリア戦で惨敗したことからファン・ハールの成功に呪われてしまい、続くチェコ戦で5バックを採用する迷走を見せた。そして1−1で迎えたアディショナルタイムに、右SBダリル・ヤンマートの致命的なバックパスミスから決勝点を許してから、オランダは負の連鎖に陥り現在へ至っている。

 こうした事例は、クラブレベルでも起こっている。この夏、アヤックスはラピド・ウィーンに敗れてチャンピオンズリーグ出場権を逃したが、第1レグのアウェーマッチ前半はなかなかの好内容で2点を先制していた。後半1点を返されたが、相手選手が1人退場になるという良い流れに恵まれた。それでもアヤックスはCBヨエル・フェルトマンの凡ミスから失点し、2−2の引き分けに持ち込まれてしまった。第2レグのホームゲームは同点弾を決めた直後に気が緩み、失点して敗退(2戦合計スコア4−5)。続く、ヨーロッパリーグのプレーオフでも、相手にPKを与えたり、敵陣で不必要なファウルをして退場になったりするミスを連発したが、辛うじて1勝1分けで勝ち上がった。

 アヤックスは22歳前後の選手で構成される非常に若いチームだが、「若い」では許されないナイーブな試合を国際試合で繰り返し、せっかくの成長機会を逸している。それはすなわちオランダリーグ、オランダ代表の欠点にもつながっている。もちろん、こうした事例はアヤックスに限らない。近年のPSV、フェイエノールト、フィテッセ、フローニンゲンは勝てる試合を引き分けたり、負けてしまったりしている。代表チームの欠点は、クラブチームにさかのぼることができるのだ。

次世代のFWが育っていない寂しさ

劣勢を強いられたトルコ戦で投入されたのはルーク・デ・ヨング(右)。ファン・ペルシー(左)も32歳となり、次代のFWが育っていない寂しさを感じさせる 【写真:ロイター/アフロ】

 だが、オランダサッカーファンにとって最も寂しいのは、次世代を担うFWが育ってないことだろう。そこが02年W杯予選で敗退したときのオランダと大きく違うところだ。敵地でのポルトガルとの決戦で、オランダは2−0とリードした。さらにファン・ハール監督は3点目を奪うためにストライカーのロイ・マカーイを入れる奇策を選んだ。その後、オランダは点差を広げるチャンスを迎えたが決めきれず、逆に2点を失い勝てる試合を2−2で引き分けてしまった。またアイルランドとのアウェーゲームで、オランダは1点を追いかける展開になり、ファン・ハール監督は続々とFWを投入し、一時は5人のFWがピッチに立つ異常事態となった。もちろんこれは機能せず、オランダは0−1で敗戦。ファン・ハール采配は批判を浴びることになった。

 しかし、当時のオランダには有り余るほどのFWがそろっており、前述のポルトガル対オランダのような名勝負も生まれていた。それに比べると、今回のオランダはトルコ戦の“ピンチヒッター(これはオランダのサッカー用語だ)”がPSVのルーク・デ・ヨングで、そのスケールは小さかった。

 ほんの少し淡い期待を持ちたいのが、オランダU−21の選手たちだ。A代表がアイスランドに敗れた翌日、キプロスと戦った彼らは4−0で大勝した。フェイエノールトで伸び悩んでいたジャン=パウル・ボエチウス(バーゼル)、フランク・デ・ブール監督とアヤックスでぶつかりラツィオへ移ったリカルド・キシュナ、昨季は2部リーグでプレーしていたヴィンセント・ヤンセン(AZ)の3トップは魅力的だった。

 現在、オランダリーグで手を付けられないほどの活躍をみせるウサーマ・タナーネ(ヘラクレス)も途中出場で実力の片りんをみせた。アヤックスの右ウインガー、アンワル・エル・ガジは負傷のため今回のキプロス戦を辞退したが、今季に入ってから急速に決定力を向上させている。年代別代表チームの試合に一喜一憂したくはないが、それほど今のオランダは追い詰められている。この世代から1人でも2人でも、本当の意味でのブレークを果たしてほしい。それが、個人的な切なる願いである。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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