機動破壊…知恵と工夫が生む野球の個性=漫画『クロカン』で学ぶ高校野球(7)
横浜高を戸惑わせた初球打ち攻撃
これが功を奏したのが08年センバツ2回戦の横浜高(神奈川)戦。4回2死三塁、カウント3−0から橋本航樹がタイムリーを放った。
「あとから小倉(清一郎、横浜高元部長)さんに聞いたら、『3−0から打つようなところと試合をしたことがない』って(笑)。横浜とか、名門校であればあるほどセオリーをきちっと教えている。そこがやっぱり狙い目で、投手も捕手も打ってこないという前提でいる。そんなことをやる相手とは練習試合もしないから、甘い球が来るんですよね」
セオリーにとらわれないから、相手が戸惑う。そこにつけ込むことで勝機が生まれる。それが相性なのだ。
唯一無二の個性「機動破壊」の秘密
「機動破壊」のチームスローガンで相手チームにプレッシャーを与える健大高崎 【写真は共同】
14年のセンバツ2回戦では、12年のセンバツで7盗塁して破っている天理高(奈良)に対し、盗塁ゼロながら暴投、捕逸のバッテリーミス3つを誘って勝利。走らずして重圧をかけた。走塁を指導する葛原毅コーチは言う。
「走塁は心理戦だと思っています。機動破壊というのは、心の部分を揺さぶっていって、総合的に得点につなげていくということ。ウチとやると、投手は盗塁を嫌がって制球が乱れる、投手が気を抜いたら盗塁、盗塁を嫌がってクイックを速くすれば四球、四球を嫌って投球がストライクゾーンの中へ中へ入ってくれば各打者がそれを見逃さない。今は『機動破壊』というキャッチフレーズと、先輩たちが残してくれたものによって、どこと試合するときでもいい意味で響いてきます。『今日、機動破壊やったんですか?』と聞かれますけど、『やる前からやってますよ』という感じなんです。それをうまく使っていくだけですからね」
耳に残る4文字と積み重ねた盗塁数で築いた個性は健大高崎にしかないもの。だからこそ、試合をする前から相手を過剰に意識させる武器になる。
宮崎監督は言う。
「突拍子もないことをやるのが個性ではないんです。野球でいう個性というのは工夫。工夫の積み重ねが個性。工夫の詰まったチームが相手にとってやりにくい、相性が悪いと言われるんです」
オリジナリティあふれる個性的な野球。定番のメニューには載っていないからこそ、ひときわ輝き、相手にも観客にも印象づけることができる。強豪にもぶつかっていくことができる。知恵と工夫から生まれた“ぶっとんだ感”こそが、脅威になるのだ。