エディージャパンはW杯で勝てるのか 3連敗で生まれた「不安」

斉藤健仁

田中「僕たち日本代表はまだ強くない」

正確なFB五郎丸のキックを生かして、試合を優位に進めたい 【斉藤健仁】

 PNCで出た大きな課題は、自陣で簡単に反則し得点を許してしまったことだ。ジョーンズHCは就任当初から「アタッキングラグビー」を信条とし、スペースがあれば自陣ゴールラインからでもパスとランでアタックする「勇気が必要」と語ってきた。だが、アジアレベルでは通用するものの、PNCでは自陣から回して反則、PGを与えて簡単に失点を重ねた。失トライが少なかったのにも関わらず、僅差で負けた原因にもなった。

 攻撃ラグビーを4年間積み上げていたからといって、自陣から100メートルをつなぐには無理がある。幸いにしてFB五郎丸歩(ヤマハ発動機)というロングキッカーもいる。敵陣で戦えば、たとえ反則したとしても、相手に得点を許すリスクも抑えられる。たとえばトンガ代表戦も、後半は「スタンダードになってくる」とFB五郎丸が言ったようにキックを交えてうまく戦った。世界を知るSH田中はPNCを「僕たち日本代表はまだ強くない。しっかり陣地を取って、FB五郎丸のキックという得点源もあるので、それを踏まえながら戦っていくことを認識させてもらいました」と振り返った。

 また敵陣でのプレーの選択も良くなかった。PGで得点ができたにも関わらず、タッチに蹴ったり、スクラムを選択した場合もあった。ラグビーは得点を競うスポーツである。ただFLリーチ主将も「W杯では(得点を)取れるところで取らないといけない。ショットの選択肢は良い勉強になった」と言えば、FB五郎丸副将も「タッチなのかスクラムなのかPGなのか、リーダー陣がゲームの内容を把握しながらコントロールすることが必要」と実感しているように、すぐに修正可能だろう。

ボールを持つ選手が「もう1秒立っていれば…」

ボールを持って突進する松島(中央)。少ない人数でボールを出すことがポイントになる 【斉藤健仁】

「エディージャパン」として現在、最大の懸念はアタックの精度だ。ジョーンズHCもアタックの課題は「トライを取ること」と言い切った。日本代表はSH、SO、インサイドCTBの周りにFWを立たせる「アタック・シェイプ」を採用している。FWとBK一体となってパスとランでボールを継続する中で、3つのユニットで、相手のディフェンスを誘導し、惑わし、崩してトライを取る戦術である。

 ただ、接点で過度に相手にプレッシャーをかけられてしまうと、相手ディフェンスにセットする時間を与え、さらに接点に人数をかけ過ぎてしまいFWがシェイプに立つことができず、攻撃は単調になるという悪循環に陥る。そうしないため、一番重要なのが、ボールキャリアが相手に打ち勝つことだ。「そこを改善しないと問題が発生する。それは個々の問題です。どういう姿勢で当たって相手を引きつけるか。もう1秒立っていれば、(2人目の)サポートプレイヤーも近づける。その練習が必要です」(ジョーンズHC)

 もちろん、フィジカルで単純に勝つことは難しいため、ショートステップや角度を付けてランすることで、日本代表に取って有利なブレイクダウンを作ることが重要だ。もちろん、そこにはSH、SOらとのパスのタイミングも関わってくる。日本代表で有数のボールキャリアであるHO堀江翔太(パナソニック)は、「PNCで判断とかブレイクダウンとか学ぶことがたくさん見えてきた。僕は小さくてもボールが出せているので、もっとボールキャリアの寝方とかを意識して練習した方がいいと思います。ただ個人だけでなくチームがどうやりたいかを理解することが一番大切」と指摘する。

4年間の「世界一の練習」を生かせるか

CTBウィングらケガ人が戻ってきているのは好材料 【斉藤健仁】

 ただジョーンズHCは「(PNCで)手の内を見せているのはほんのわずかです。個々の選手がチームの中でどういう役割、判断をするか。すべて改善が必要です。新しいメンバーが入ってきてまだまだシャープさが足りない。試合をすればどんどん上達していきます」と強気の発言もした。もちろん、言い訳ではない。この4年間やってきた確固たる自信に裏付けられているはずだ。

 指揮官はフィジカルで劣る日本代表が守り勝つことができないという哲学の下、ボールポゼッションを前提としたアタッキングラグビーを掲げた。W杯本番で、セットプレーが互角かやや劣勢になったとき、やはり日本代表が戻るべき型、軸となるのが「アタック・シェイプ」であることは明白である。その攻撃戦術を成り立たせるためのフィットネスとフィジカルを獲得するため4年間、朝5時からの「ヘッドスタート」を筆頭に「世界一の練習」で鍛えてきたのだから……。

 8月15日の世界選抜戦(東京・秩父宮)を皮切りに、W杯本番まで残り4試合。残された時間は決して多くない。もちろん、試合に勝つことができれば、それはそれでベターであろう。ただセットプレーでプレッシャーを与えつつ、キックをうまく使って敵陣で戦い、しっかりとFB五郎丸のPGで得点を重ね、相手の疲れが見えてきた後半の後半、「アタック・シェイプ」でトライを取り切る――そんなブレイブブロッサムズ(勇敢な桜の戦士たち)が見たい。それこそがW杯での歓喜につながると信じている。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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