甲府ユース出身の日本人がオランダで台頭 ドルトレヒトで味わう21歳の開幕勝利

中田徹

初めて感じる「プロになった証」

昨季のエールディビジ最終節トゥエンテ戦でデビューし注目を集めた 【Getty Images Sport】

 試合は激戦の末、3−1でドルトレヒトが勝った。満面の笑みで際がピッチから引き上げ、マルコ・ボーヘルス・テクニカルディレクターと抱き合って喜ぶ。更衣室から選手たちの凱歌が聞こえてくる。 

「本当にうれしかったです! 僕にとってプロとして初めての開幕戦。勝てたことがうれしいです。今日は反省点の方が多いですけれど、勝った試合を経験できたのは大きいです。(守備の選手は)負けると反省点しか見つからないですし。今日も反省点ばかりでしたが、前向きにやっていきたい。それこそ課題は山積みですけれど、改善していくのが楽しみです」

 そう言えば、後半深まった頃、バックスタンドで際とサポーターが盛り上がりを見せていたが、あれは何だったのだろう。

「サポーターが初め、僕のことを『サイ! サイ!』って言っていたんですけれど、そのうち、『スシ、スシ』と言い始めた。だから、ラインを切ったボールを拾うとき、寿司を食べるふりしてモグモグってやったら、もっと盛り上がった。そういうことを一人でやっていたんです(笑)。足がつっていたので、あんまり考えない方がいいと思って。だから、ちょっと楽しんだ。盛り上がった方がいいじゃないですか。(けが人が出て)プレーも止まっていたので、自分としてもリラックした方がいいと思いました。サポーターが盛り上がってくれるんですよ。ありがたいです」

 ドルトレヒトのスタジアムは4200人収容と小さく、しかも今季は2部とあって空席も目立つ。それでも、一人ひとりの熱狂度が高いのはテレビでもドキュメンタリーとなって紹介されたこともあってオランダ中に知られている。際もこの夜、それを実感した。

「ここでプレーするのは鳥肌ものです。この規模でも十分鳥肌が立ちます。(空席もあって)いっぱいではないけれど、その迫力はすごい。ピッチとの近さもありますし、一人ひとりの熱気が違うから、やっていて楽しいです」

 オランダリーグに来る日本人選手は“助っ人”としてやってくるが、際は違う。高校を卒業し、オランダへ渡ってから3年。最初の2年間はリザーブリーグで研さんを積み、そして今季プロ契約を勝ち取った。この歩みは千葉和彦(元AGOVVアペルドールン、現サンフレッチェ広島)に近い。だからこそ、オランダリーグのシーズンガイドブックに載ったことがうれしい。自分の写真を載ったページを見て、「あ、(書店に)出たんだ! いいですね。プロになった証」と喜んだ。

「チームが生きるかどうか、ドルトレヒトはSBで決まってきます。それは、やっていて思います。(FWが強力だから)縦にボールを付けられるSBがいればぜんぜん違う。僕はまだ前にボールを付けられないので、そこを改善していきたい」

 チームの目標は1部復帰、際の目標は日本代表の五輪メンバー。そのためにも、ピッチを上げて成長することを誓っている。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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