武藤雄樹が描いたシンデレラストーリー 予期せぬ代表選出にも変わらないスタンス

郡司聡

自信が確信に変わった横浜FM戦

開幕戦では先発出場。徐々に「浦和でもやれる」という手応えをつかんでいった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

「結構、いけるんじゃないかな」

 ミシャ・レッズでやれる手応えをつかみ始めたのは、プレシーズンのニューイヤーカップを戦っているころだった。フリックやワンタッチプレーを多用しながら、1トップ2シャドーのコンビネーションを軸に攻撃を構築するミシャ・レッズの中で、自身がボールの経由地点となって、ときにはゴール前にドリブルで仕掛けていく。決まりごとを消化しながら、ストロングポイントを発揮する落としどころを見つけようとしていた。

 公式戦の初戦だったACL(AFCチャンピオンズリーグ)グループステージ第1節の水原三星戦(1−2)こそ遠征メンバー外だったが、J1ファーストステージ開幕戦の湘南ベルマーレ戦(3−1)で初の先発出場を果たす。そして続く第2節のモンテディオ山形戦(1−0)では後半開始からの途中出場で45分間プレーすると、「浦和でもやれるな」という手応えに変わっていた。

 自信が確信に変わったのは、浦和移籍後初ゴールを決めた第6節の横浜F・マリノス戦。「シャドーのポジションで自分のプレーを出せていることが結果を残せている要因だし、ゴールを積み重ねていくことですごく自信になっている」と、得点がさらなる自信を生み、武藤は量産態勢に入った。

「僕に特別なスピードや高さはない。相手との駆け引きに勝つしか点を取れないと思っている」

 ポジショニングを工夫しながら相手のマークを外し、瞬時にトップスピードへギアチェンジして相手ゴールを脅かす。そうしたストロングポイントを発揮することと合わせて、第17節のアルビレックス新潟戦(5−2)の2ゴールに象徴されるように、的確にこぼれ球に詰めることができるのも武藤の特長の一つである。その背景には、「味方がシュートを打つとき、相手のディフェンスはそっちを見ているので、僕はその隙を狙っている」という相手との駆け引きがある。

 ただしそうした姿勢は「レッズに来てから始めたのではなく、今までずっとやってきたこと」。本人が「そういうシーンはこれまでなかったかもしれないけど、こぼれ球に詰めることは、何度も走ってきたその積み重ねだと思っている」と話しているように、一朝一夕で今の武藤が完成されたわけではない。

浦和レッズの武藤雄樹として

本人でさえ予期せぬ代表選出だったが、武藤自身のスタンスは変わらない 【写真:アフロスポーツ】

 代表発表後、初のリーグ戦となったセカンドステージ第4節の名古屋グランパス戦で武藤は無得点に終わり、さらにチームは1−2で敗れた。うだるような暑さのミックスゾーンで、彼は額から落ちてくる汗を何度も拭いながら、真摯に取材対応をこなしていた。

「代表に入ったからといってやることは変わらない。代表に入ったことで少なからず注目されるし、大きな期待がある中で結果を残せなかったことがすごく残念。力不足を感じている」

 東アジアカップの暫定登録メンバーに入ったときも、武藤は事あるごとに「レッズでのプレーを評価されて選ばれたと思っているので、チームでの結果を求めていきたい」と話している。「誰も思っていないだろうし、僕自身も思っていなかった」サムライ・ブルーのユニホームに袖を通しても、そのスタンスは変わらない。今回の代表選出は『浦和レッズの武藤雄樹』の延長上にあることを、本人はよく知っている。

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著者プロフィール

編集者・ライター。広告代理店、編集プロダクション、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』編集部を経て、フリーに。定点観測チームである浦和レッズとFC町田ゼルビアを中心に取材し、『「背番号のこだわり」「俺の背番号」』や『サッカーダイジェスト』、『Number Web』などに寄稿。町田を中心としたWebマガジン『ゼルビアTimes』(http://www.targma.jp/machida/)編集長。著書に『不屈のゼルビア』(スクワッド)。

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