男子短距離に必要な「メンタルの強さ」 陸連・苅部部長が語る世界との戦い方

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身体能力のハンデをどう埋めるか?

選手には今後、海外レースを経験させ「精神的なタフさを身につけさせてあげたい」という 【スポーツナビ】

――ご自身もそうですが、同期で100メートルの日本記録保持者である伊東浩司さん、かつて指導されていた為末大さん、朝原さんは、一人で海外を転戦されていました。彼らと今の選手との違いはありますか?

 いずれはどんどん欧州に行かせて、悪い条件でもやってみるという精神的なタフさは、どこかで身につけさせてあげたいですね。名前の挙がった方たちはみんな(そういうふうに)やってきて強くなってきています。為末君は本当にタフですよ。(05年の)ヘルシンキ世界選手権の時は、雨でどんどん(レースが)遅れたのを「あれはラッキーだと思った。これで俺は勝てると思った」と言っていますから。でも、適切な時期があるので、それをちゃんと見極めないといけません。例えば今、サニブラウン選手に「一人で行って来い」と言っても、「出られませんでした」で終わる可能性もあります。ただ、技術に関しては日本が絶対に一番だと思います。

――走る技術ですか?

 走りの技術は絶対に一番、日本が細かくやっていますね。ノウハウもあるし科学的にやっているし、一番進んでいると思います。海外選手はそこまで緻密にやっていない印象です。彼らが一番きっちりやっているのは時間です。例えば何秒でここを走って、リカバリーは何秒にして、次は何秒でいって……というのを、きっちりやります。それも大事なのですが、でもそれだけではだめなんです。

――日本が一つ上のレベルにいくためには、技術と何を結びつける必要があるでしょうか?

 やはりそれを使いこなせる能力はいります。私がこういうことを言ってしまっては何ですけれど、カナダのケベック州の研究チームが、筋肉の質などを研究していて、黒人が一番すごくて次が白人、モンゴロイドは全然ダメだといった研究結果でした。それを私たちが見たところで「じゃあ、日本人はどうすればいいの?」となってしまう。その身体能力のハンデをどういうふうに埋めていくかをやっているというのが、現状です。

――ハンデを埋めるという点は、長く模索しているところですね。

 ずっと追い求めていかなければいけません。勝つために、何か新しいものを細かくやっていくというのが日本のやり方だと思います。技術を高めていって彼らに対抗していく。例えば、ハードルの技術を磨くことで、為末君が(世界選手権で)3番になったりするわけです。でも最近は、桐生選手やサニブラウン選手といった、楽しみな選手が出てきて、少し光あるかなという感じはしています。

世界選手権は「レベルが上がる可能性がある」

世界選手権では藤光(写真)、高瀬が出場する200メートルで複数人の決勝進出が期待される 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――世界選手権に向けて種目ごとに目標を教えてください。

 五輪の前年は五輪を見据えた戦略を取らなければいけません。それは多分、各国同じなので、今年はレベルが上がる可能性があります。男子短距離としては、全種目入賞、400メートルリレーはメダルという、いつも同じ目標ですね。100メートルは準決勝にいけばすごいと思います。決勝に残ったら快挙です。200メートルでは、決勝に残る現実性があるので、1人は残りたい。2人残ったらこちらも快挙。400メートルも決勝に残ってほしいですが、正直なところ準決勝レベルかもしれません。1600メートルリレーももちろん決勝進出を目指します。400メートルリレーは世界リレー(バハマ)で銅メダルを取っているので、メダルが目標です。

――今年の結果次第だとは思いますが、リオデジャネイロ五輪を見越すといかがですか?

 リオは今年の結果を見据えて考えます。でも、やはりメダルは取りたいです。陸上って誰でもできるじゃないですか。短距離走なんて、誰もが一度は経験している。誰が一番速いか、誰が一番跳べるか、誰が一番投げられるかといった、すごく人間のベーシックな部分で、誰でもできるようなものの中で、地球一速い人を選ぶようなレースで3番に入るということは、すごいことだと思うんです。経験上そんなに簡単にメダルは取れないとは思います(苦笑)。でも、全種目入賞と、リレーのメダル(という目標)は、これより下げたくないですね。

(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)

※29日(水)に苅部俊二短距離部長のインタビュー続編を掲載予定です。

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