インテルで愛される選手となって―― 長友佑都×城福浩 初の師弟対談<後編>

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「大好きなクラブ」となったインテル

ミラノダービーでキャプテンマークを巻いた瞬間、長友(右)は「疲れも何もかもふっ飛んだ」と振り返る 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】

――そんな環境の中でプレーを続け、長友選手も気がつくとインテルの中堅以上になってきましたね。

長友 自分のやるべきことという部分では大きくは変わりませんけれどね。ただ、インテルは自分のファミリーみたいですね。チームメート、スタッフを含めて良い関係ですし、本当に大好きなクラブです。こんなに愛着がわくとは自分でも考えられなかったし、とにかく温かいんですよ。

城福 それは最初の頃にも言っていたよね。(ハビエル・)サネッティや(ウェズレイ・)スナイデルだったりといったすごいメンバーがいる中で「どうなの?」って聞いたら、「すごく温かい」って。

長友 なぜなら、それだけ外から掛かるプレッシャーがすごいから、内側は本当に結束しないとやっていけないんです。

城福 その話を佑都から聞いて、インテルというビッククラブにいるということは、それだけすごいプレッシャーが掛かっているんだな、そういう環境でやれているのはすごいなというのは感じましたね。

長友 この環境でやれていることは本当にありがたいですね。

――そんな環境でキャプテンマークを巻いた瞬間はどういう気持ちでしたか?

長友 僕が最初にキャプテンマークを巻いたのは、ミラノダービーの途中(編注:13−14シーズン第17節、1−0でインテルが勝利)で(エステバン・)カンビアッソが外に出るときで、後半の残り15分か20分くらいでしたが、疲れも何もかもふっ飛びましたね。前半の立ち上がりよりも走れる感覚で、テンションが上がって。でも、重みはすごく感じました。8万人がいる中で、ミラノダービーで、しかも(巻くのが)初めてで。僕がミスをして負けようものなら、次の日には犯罪者のような扱いを受けていたかもしれませんから。そういう重みを巻いて、そこから1点を取れて勝てたというのは、僕の中でこれほどうれしいものはないってくらい興奮しましたね。

城福 あれはたまたまではないよね。あれを巻くというのはそれまでの日々の信頼関係だったり、練習場だったりで人間関係を培ってきた上で誰が巻くかを選ぶわけだから。通りすがりの人に巻いたわけではない。カンビアッソが巻きたいと思わないと巻かないから。日々の努力の一部分があそこに現れたと思います。

――今のチームメートでは誰と仲が良いのですか?

長友 スナイデルとか(アントニオ・)カッサーノとか仲が良い奴は皆出て行ったんですよ。

――やはり今も悪童が好きなのですか?(笑)

長友 なんなんですかね。こう……ピッチ外でおちゃらけた奴と付き合うのが好きですね(笑)。いたずら好きみたいな奴と付き合うのは楽しいです。すぐに仲良くなれるというか、ちょっと悪い奴くらいの方が仲良くなれるというのはありますね。

城福 向こうからしたらイジりやすいんだろうね(笑)。佑都がすごく一生懸命にやってくれるから。

長友 間違いないですね(笑)。「まだやってるの? アホだろ?」って(笑)。カッサーノは「お前まだやっているのか?」「まだ筋トレしているのか?」「まだ走っているのか?」って、いつも言ってきましたね(笑)。自分はこんな(大きな)お腹をしているのに(笑)。

城福 そういう奴って興味があるし、逆に好きになるんじゃないかな。自分に持っていないものを持っているから。

長友 そうですね。

刺激し合う二人が見つめる未来

城福(左)は「エールを送れるように、自分もサッカーに対して研鑽(けんさん)を深めていきたい」と長友への想いを語ってくれた 【スポーツナビ】

――もともと、ディフェンダーとしてセリエAに憧れはあったのですか?

長友 イタリアは(パオロ・)マルディー二とか(ファビオ・)カンナバーロとかそういう有名な選手だけですけどね。イタリアはディフェンスの国、守備が堅いというイメージはありました。

――城福さんは、長友選手がイタリアに行くと聞いたとき、率直にどういう印象を持ちましたか?

城福 セリエAは海外の4大リーグですが、どこに行ってもとにかく試合に出てほしいと思っていました。当時ミランにいたズラタン・イブラヒモビッチ(現パリ・サンジェルマン)を抑えたりして、評価を上げてインテルに行ったでしょ(編注:10−11シーズン第2節、ミランを迎えたチェゼーナのホーム開幕戦で先発し、2−0の完封勝利に貢献した)。だから見ていて、佑都はそういう(ステップアップしていく)サイクルを持っているなって思いましたね。

 もう一つは、当時イタリアってリーグとしては少し下降気味だったんですよね。(09−10シーズンの)チャンピオンズリーグでインテルが優勝したけれど、リーグとしては下降気味で、特にインテルは年寄り軍団だった。年寄り軍団だったからこそ、佑都の生き生きさが際立っていたんだと思う。だから、試合に出ることができた。でも、それは自分で運を手繰り寄せたというか、逃していないよね。そういうのを日本から見ていて「こいつ持っているな」って思った。あのチームには佑都が必要だったんだよね。

長友 うーん。確かに。みんな足元にボールをもらいたがっていましたね。「とりあえず佑都は走れ」って。「その空いたスペースに俺が行くから」って(笑)。

城福 でもそれって、ただ運が良いだけではなくて、運を手繰り寄せる力を持っているんだなって。それがセリエAだろうがなんだろうが関係ない。逆に言うと今ベテランがいなくなって、佑都が中堅よりも上になったとき、今度は新たな立場として日本のサッカー界は佑都が何を示すか求めているんだなって思う。そういう立場が新たな佑都を生み出すと思いますね。楽しみです。

――こういった城福さんからの言葉を聞いて、どのように思いますか?

長友 本当に城福さんには何回も助けられていますし、城福さんの言葉は当時から響いていました。監督としてだけではなくて人間性ですね。その人のために何かをしたいという気持ちは当時から伝わっていました。それは僕が試合に出させてもらっていたからではなくて、一人の人間としてすごく尊敬できる人だったので、そういう方からのアドバイスは素直に吸収できるし、響きます。響いてまたそれを自分のエネルギーに変えてトライするという気持ちがまた新たに生まれるので、これは本当にお世辞でもなく自分の正直な気持ちですね。本当に尊敬しています。監督としてだけではなく、一人の人間として。

――最後に、城福さんから長友選手へエールをお願いします。

城福 インテルは新陳代謝があって、新たな佑都の立場ができてきている。その新たな環境が新たな佑都を生み出していく中で、それが違うクラブなのか、インテルなのか……。でもインテルであってもチームが変わっているから、それは楽しみにしているし、エールを送りたいです。僕は、彼がピークパフォーマンスのときにどんなプレーをするのか、そしてそれが日本代表の結果にどれだけ反映されるのか、当事者意識を持ちつつも、とても楽しみにしています。彼にエールを送れるように、自分もサッカーに対して研鑽(けんさん)を深めていきたいなと思います。

<敬称略、了>

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