横浜高・渡辺監督が伝えた言葉の意味 教え子に深く刻まれた人としての教え

ベースボール・タイムズ

座右の銘で伝わる“渡辺イズム”

高校時代の松坂の投球練習を見守る渡辺監督。松坂世代の後藤、小池らを筆頭に50人以上の選手をプロに送り出した 【写真は共同】

 甲子園での戦績だけでなく、プロ野球へ多くの選手を輩出したことも渡辺監督の名将たるゆえんだ。松坂、後藤以外にも、中田良弘(元阪神)、愛甲猛(元千葉ロッテなど)、鈴木尚典(元横浜)、高橋建(元広島など)、成瀬善久(現東京ヤクルト)、涌井秀章(現ロッテ)ら、そうそうたる面々がプロの舞台で活躍。その門下生は50人を超える。

 今季、球界を代表する4番へと成長したDeNA・筒香嘉智(10年卒)もその一人。渡辺監督に対して、「僕の恩師です」と頭を下げる。
「野球以外のこともたくさん教えていただきました。監督からは野球選手である前に『一人の人間としてしっかりしろ!』というのは常に言われていましたね。横浜高からは、いろいろなすごい選手がたくさんプロに入って活躍されていますし、『野球選手としてだけでなく人間として』という渡辺監督の指導が、選手の成長につながっていると思います」

 若手では、北海道日本ハムの近藤健介(12年卒)の成長が目覚ましい。プロ入り後も、渡辺監督の教えを忘れずに腕を磨いた。

「まず人としての礼儀、そして『一日一日、しっかりと目標を立てて練習する』ということを教わりましたね。『目標を立てること』と『練習はウソをつかない』ということ。渡辺監督のその言葉を信じて、たとえ練習であっても、常に高い目標を立てて取り組んできたつもりです。それはプロに入ってからも続けていますし、その教えが今の自分にも生きていると思います」

 そして昨年まで指導を受けていた日本ハム・浅間大基(15年卒)の胸にも、「目標がその日その日を支配する」という渡辺監督の座右の銘(社会教育家・後藤静香の詩の一節)とともに“渡辺イズム”が深く刻み込まれている。

「礼儀には厳しかったですけど、優しくもしてくれましたし、『けがだけはするな!』とよく言われていました。監督がよく言われていた『目標がその日その日を支配する』という言葉通り、目標をしっかり持つことで自分の未来が変わってくる。そういう大事なことをたくさん教えてもらいました」

最後の甲子園へ 1回戦はコールド勝ち

 渡辺監督の勇退が発表されたのは今年の5月。疲労の蓄積や体調不良が理由とのこと。「去年とかも『疲れた』って弱音みたいなものを聞いたことがありましたけど、実際に辞めるというのを聞くと本当にさびしいです」と浅間は言う。DeNAの石川雄洋(05年卒)も「残念です……。いずれはこういう時が来るとは思っていましたけど、小倉(清一郎)さん(部長、コーチを歴任、14年夏を最後に勇退)に続いて、渡辺監督も辞めてしまうと横浜高校っぽくない……」と嘆く。勇退後は終身名誉監督として支えるというが、第一線で指揮を執るのはこの夏が最後となる。

 昨年の秋、今年の春で、ともに神奈川大会3回戦で敗れてシード権を逃した横浜高は、最後の夏は1回戦からの戦いを強いられた。12日に行われた初戦は、光明相模原高を相手に9対0でコールド勝ちして順調なスタートを切った。
「最後にいい形で花道を作ってほしい」と筒香。後藤も「横浜高は全国制覇が一番似合う。最後にもう一度優勝して、有終の美を飾ってほしい」と息巻く。全国最激戦区の神奈川を勝ち抜くのが簡単でないことは周知の事実だが、それでも教え子たちは信じている。かつて渡辺監督から贈られた数々の言葉を握りしめながら、最後の夏へ熱いエールを送る。

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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