日本大会後に残るラグビーW杯の遺産とは レガシーコーディネーターが考える成功

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提供:(公財)日本ラグビーフットボール協会

ラグビーは人間形成に効果がある

西機氏は第2部で時折来る参加者からのするどい質問にも丁寧に答えていた 【スポーツナビ】

 休憩を挟んで行われた第2部では、第1部の講演に関する西機氏との質疑応答が行われ、組織委員会の活動やレガシープログラムについての活発な議論が行われた。以下は質疑応答の要旨。

――ラグビーに関心がない層に対しての具体的な策は?

 いきなりど真ん中で一番難しい質問ですね。ちょうど昨日、アジアのラグビー普及のためにフィリピンにアジア各地から関係者が集まり、「どのようにラグビーを知らない国で子どもたちにやってもらうか?」ということを話し合いました。コーチ目線やラグビーをやっている身から言うと、最終的にラグビーをやってもらいたいからラグビー普及をするんですね。でも「それをゴールにしていたら絶対に広がらない」という話を、私がその会議の中で話しました。私は普段、教員養成もしていますし、体育の教員免許も持っています。それを考えたときに、体育のアプローチと、ラグビーをクラブでアプローチするのとだとまったく違ってきます。別にラグビーがゴールにならなくてもいいんです。

 子どもの運動能力の開発や、チームワークとか教育面などを考えたとき、ラグビーの鬼ごっこの要素だったり、おしくらまんじゅうの要素から得るチームワークだとかで十分かもしれません。タグラグビーまでならやるけれど、その先には進みたくないという子がいると思うんですよね。入り口としてはラグビーの面白さをいろいろな要素に小分けするといいますか、最終的にそれを体験した10人や100人の中から1人がラグビー選手になってくれればいいと思うんです。

 ラグビー選手を作るというよりも入り口のハードルを下げて、楽しい要素の部分をいろんな形でとことんやってもらうプログラムも準備しないといけないんだと思います。「気が付いたらラグビーをやっていた」というくらいのイメージでプログラミングや指導をすると先生たちも取り組みやすいと思います。これが答えになるのかは分からないですけれど、一つの考えですね。

 あとは“ノーサイドの精神”とか“One for all, All for one”(1人はみんなのために、みんなは1人のために)の教育面ですね。私は、ラグビーが他のスポーツよりも確実にそういった人間形成に対する効果や価値があると信じています。実際にタグラグビーを会社のチームビルディングでやられている方もいらっしゃいます。ラグビーを越えた目的を持ってラグビーをどう使うか、というまさにレバレッジです。ラグビーを通じると効果が大きく上がるんじゃないか、というプログラムをいかに考えていくか。それができれば当然W杯が終わった後にも残り、それこそレガシーになるのではないかと思います。

――19年のラグビーW杯は何をもって成功と考えていますか?

 人によって求めるレガシーが違うということで、何をもって成功かも人によって違うと思います。できるだけ多くの人に成功だと思ってもらうことが、成功へ導くための大事なポイントなんだと思います。

 W杯なので試合は絶対に興奮や感動を残します。それを多くの人に見ていただき、結果的に黒字になるというのが組織委員会としては成功だと思います。でも大会が終わったあとに、「えっ、ラグビーのW杯なんてあったの?」と言う国民が多くいた場合、それは成功とは言えないのではないかと思います。

 また、アテネ五輪などは大会自体は失敗ではないですよね。でも、その後に残した競技場の問題があります。今は全然使われずに廃墟となっています。さらにさかのぼるとモントリオール五輪の借金はつい最近返済できたようです。30年近く負の遺産を取り戻すための取り組みがされてきたわけです。競技大会としての成功と、日本が誘致したスポーツイベントを越えた国民のイベントという意味では、成功をはかる部分が違ってくるのだと思います。

外国人の方にも楽しんでいただきたい

――大会組織委員会として、レガシーの観点から開催都市12カ所に「こんな準備をしてほしい」などの要望はあるか?

 19年の本大会に向けて自治体の担当者の方々の目は行っていると思います。組織委員会としての成功という意味では、大会として成り立たせるということが大事です。ですが、誘致した市や県はその先のビジョンを描かれているはずです。選挙があったり、行政の計画があったり、スポーツに限らず街づくりの計画などがあると思いますが、目指すビジョンをしっかりと持っていてほしいですね。それがなかったらラグビーW杯のレガシー作りなんてできないと思います。目指すビジョンなどを当然準備していると思うので、それを教えていただきながら、そのお手伝いなりきっかけ作りができるようなアクションをしたいと思っていますので、そういう対話を行っていきたいですね。

――W杯開催地以外の地域は、どのようにラグビーレガシーを残すべきだと考えているか? また日本全体で取り組むべきことは何か?

 それはすごく課題です。47都道府県すべてにラグビー協会がありますし、ラグビーをやってる人たちもいます。皆さんにW杯を見てもらいたいというのがありますので、そこはパブリックビューイングやテレビを通してというのもありますし、日本全国にラグビーを発信する良い機会であると思います。

 後は海外から来る方へのおもてなしですね。海外からのW杯観戦者は3週間ほど滞在するという過去のデータがあります。それを考えると、ラグビーの試合は間隔があきますので試合に行かない時間が海外の方々は非常に多いです。皆さん全国を回って移動しますが、すべての人が開催都市から都市に飛行機で移動するわけではないでしょうから、日本のお祭りや食でおもてなしみたいなものをして盛り上がっていただけると、外国人の方にも楽しんでいただけるのではないかなと思います。「日本でW杯があるとこんなに楽しいんだ」と思ってもらえることが、日本人にとっての成功の一つの指針かと思います。すべてがすべてラグビーの要素だけではなくて、日本という国のことを、外国から来てくれた人に知ってもらうことも大事な要素だと思います。

あなたにとってラグビーとは?

 今日のお話からすると僕にとってのレバレッジですかね。過去は選手としてラグビーに打ち込んできて、指導者としてもラグビーの虜になって、今回W杯が日本に来るというタイミングで自分が年齢や職業的に携われる立場につながった。ラグビーが常に今や未来を高めてくれたり、過去の自分がやってきたことを豊かにしてくれた。今までの人生が僕にとってはレガシーであり、ラグビーがさらに今後、僕に豊かな人生をもたらしてくれる。ラグビーという“てこ”を使いながら人生設計を立て、ラグビーとともに人生を楽しんでいきたいと思っています。

協力:(公財)日本ラグビーフットボール協会

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