「掘り出し物」の青木に痛い負傷離脱 復帰後は再びレギュラー争いから

鈴木良枝

皮肉にも評価を上げた右足の負傷

現地時間20日のドジャース戦で右足に死球を受けた青木。3日後に受けた再検査で右足腓骨の亀裂骨折と診断された 【Getty Images】

 23日(日本時間24日、以下すべて現地時間)、試合前のAT&Tパークで急きょ先発ラインナップの変更が伝えられた。この日「1番・レフト」で先発予定だった青木宣親の名前が消えた。何かが起きたと察した記者は少なくなかった。

「優勝できるチームでプレーを」と念願かなって移籍。今季からジャイアンツのユニホームを着て順調なシーズンを送っていた青木を悲劇が襲ったのは、その3日前、20日にドジャー・スタジアムで行われたドジャース戦で、試合開始1分後の出来事だった。速球が武器の先発カルロス・フリアスが投じた94マイル(約151キロ)のボールを、右足くるぶし上にまともに受けた。あまりの痛みに声をあげながら倒れこみ、しばらく立ち上がることができなかった。見ていた誰もが、もはやプレー続行は不可能だろうと思っていたが、青木は立ち上がると足を引きずり一塁へ向かった。その姿には、普段はライバルとして厳しい声を浴びせる敵地のファンも拍手でたたえた。

 それどころか、続く2番のジョー・パニックの二塁打で、青木は歩行もままならない状態であっただろう足で必死に走り三塁へ。その後3番エンジェル・パガンの犠牲フライでホームにかえってきた。ダッグアウトに戻ってきた青木を、チームメートたちは感謝と勇気をたたえるまなざしで出迎えた。チームメートの中でも、彼の存在感が増したことは言うまでもない。

 皮肉にも、この負傷が青木の評価を一気に上げることとなった。

 この日先発した、投手陣の兄貴的存在であるベテランのティム・ハドソンは「まさにチームプレーだよ。このロッカールームには、チームの勝利のために自分を犠牲にすることをいとわない選手がいる。彼は本当にタフな選手だよ」とたたえた。

 試合後、足を引きずりながらクラブハウスを出ようとした青木にある選手が声をかけた。
「(マディソン・)バムガーナーはどこ? 君はバムガーナーに運んでもらう必要があるよ(笑)」とジョークで笑った。

“チームのエースが担いで運ぶほどの価値がある選手”ということだ。まさにチームプレーをモットーとするジャイアンツに真の意味で認められた日だったのかもしれない。

予想以上の活躍を見せるお得な買い物

 20日の試合中に行われたレントゲン検査では骨に異常がないと診断されたため、青木はすぐに復帰できると思われていた。だが、23日の練習中に痛みが出たことから試合開始前に急きょラインナップの変更が告げられる。再びレントゲン検査を受けたところ、1センチほどのヒビが見つかり、右足腓骨の亀裂骨折との診断が下された。翌日には15日間の故障者リスト(DL)に入り、有力視されていたオールスターゲームへの出場も絶望的となっている。

 青木のDL入りの速報に、球団のSNSにはファンから多くのコメントが寄せられた。「信じられない。彼はとても好調だったのに……」「残念だ。またもや外野手がいなくなるなんて」など青木の戦線離脱を惜しむ声が聞かれた。それだけファンに印象を与えている選手になっていたということだ。

 球団側としては正直なところ、ここまでは期待以上の活躍をしてくれた、とてもお得なお買い物であっただろう。現地メディアも「掘り出し物」と伝えている。

 27日終了時点で打率3割1分7厘(リーグ5位)、出塁率3割8分3厘(同8位)、盗塁12(同11位タイ)。6月、ボビー・エバンズGMはこの成績を残す青木について、「健康で試合に出続けられ、われわれに勝利をもたらしてくれる」と評価していた。まさに移籍の際に言っていた、けがをせずに起用に応えることが実行されていたことは、チームにとって何よりも朗報だった。

 移籍当初、青木はレギュラーを確約されてはいなかった。スプリングトレーニングでも、首脳陣を納得させられるだけの結果を残すことができなかった。29試合に出場し、打率は1割9分4厘。74打数で12安打と振るわず、盗塁はわずか1個。外野をすべて守れるとアピールしたが、開幕前にボウチー監督は「この球場(AT&Tパーク)の(複雑な形状の)ライトは、青木にとっては難しいだろう」と、青木の本来の守備位置であったライトでは起用しない方針であることも明言していた。

 ライトのレギュラーであるハンター・ペンスが、オープン戦3試合目で、左腕に死球を受け骨折、開幕絶望となった。主軸を打つ予定であったペンスの離脱に、首脳陣はいろいろなオーダーを試して選手を吟味する予定が、早々にチームプランを変更せざるを得なくなった。

 チーム的にはかなり痛手だったが、青木にはラッキーが重なった。パワーヒッターが抜けた小ぶりなチームの中で、主軸を打てる力のある1番打者のパガンを3番に据えなければならず、空いた必然的に青木が1番を打つことになった。

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著者プロフィール

サンフランシスコ在住。テレビ局勤務。スポーツリポーター、AP、コーディネーター。高校野球の監督だった父親の影響で高校・大学では野球部のマネージャーを務める。大学時代よりプロ野球やMLB中継に携わる。テレビ局のスポーツ局での勤務を経て、その後拠点を米国に移す。現在はサンフランシスコ・ジャイアンツやサンフランシスコ49ersなどスポーツの取材を中心に行うほか、コーディネーターとして幅広くテレビ番組の制作にも関わっている。

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