攻守ともに光ったなでしこの“強気” 目指すは「自分たちのサッカー」超え

江橋よしのり

幸運をもたらした虹の輪

オランダを退け、なでしこは前回大会に続きベスト8進出を果たした 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 女子ワールドカップ(W杯)のオランダ戦前日、練習を終えたなでしこジャパンの選手と報道陣は、空を見上げていた。太陽の周りに虹色のリングができる、「ハロ(日暈)」と呼ばれる珍しい現象を目にしたのだ。

 吉兆かもしれない、と私は思った。2006年のアジアカップで9年ぶりに中国を破った(1−0)その日、アデレードの夕空には大きな虹が架かっていた。11年のW杯でも、ヴォルフスブルクで虹に遭遇した次の試合で、なでしこジャパンはチーム史上初めてドイツに勝利した(1−0)。だから今回も、きっとこの虹の輪がなでしこジャパンに幸運をもたらすのではないか。そう思うと帰りの足取りが軽くなった。

 そして翌日。なでしこジャパンはアイデアあふれる攻撃と、たくましい守備を見せ、オランダに2−1で勝利した。

 この日のなでしこは、攻守ともに強気だった。攻撃は、両サイドからの崩しが機能する。「特に相手の左サイドバック(ヴァン・ドンゲン)が中央に寄ったポジショニングをしていた」(佐々木則夫監督)ため、なでしこの右サイド、川澄奈穂美と有吉佐織のコンビが序盤からゴールに迫った。すると10分、左サイドから早いテンポでパスをつなぎ、宮間あやがクロスを上げる。反応した大儀見優季のヘディングシュートはクロスバーに阻まれるも、相手クリアボールを拾ったのは逆サイドのDF有吉だった。

「私はスピードで勝負できるタイプではないので、タイミングが大事」と有吉は言う。いつ攻め上がるのか、どこを駆け上がるのか。なでしこジャパンでレギュラーをつかみ取るために、その判断を磨き続けてきた。この時も自らの判断でゴール前に駆け上がると、目の前にボールがこぼれてきた。その瞬間「視界が開けた」という有吉が、思い切り右足を振り抜く。有吉の代表初ゴールが決まり、1−0と先制。なでしこジャパンは今大会、4試合続けて前半のうちに先制点を挙げている。

なでしこが持つ攻撃の意図

78分の阪口の追加点は、相手を動かすことによって生まれたゴールだった 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 その後もなでしこは、決定的なパスを狙い続けた。特に第2戦カメルーン戦以来の先発となった川澄は、たとえ自分の体勢が多少悪くても、相手チームの意表を突くタイミングでの縦パスにチャレンジしていた。おそらく川澄は、相手の陣形が整う前にパスを通してしまおうという意図を持っていたのだろう。宮間の言葉を借りれば「自分たちのやりやすいプレーばかりをやっていては、世界で勝つのは難しい。相手が嫌だと思う場所やタイミングを考えてパスを出せたらいい」というのが、今のなでしこの攻撃の意図だ。つまりなでしこは、「自分たちのサッカー」を超えるサッカーを身につけてこそ、再び世界の頂点を狙えるのだと捉えている。

 相手の嫌がる場所とタイミング。その意図は後半の攻撃にも垣間見えた。67分、有吉が持ち上がるとファーサイドで大儀見が手を挙げて、パスを呼び込むアクションを起こした。大儀見の動きに合わせて、オランダのDFラインが後退する。そうして空いたスペースに走り込んだ阪口がミドルシュート。相手を動かすことで生まれたチャンスだった。

 78分の追加点のシーンもそうだ。途中出場の岩渕真奈が右サイドでキープすると、大儀見が相手DFの背中側に走り込む。相手選手の重心と逆方向に岩渕がパスを通すと、大儀見、宮間とつないで中央に折り返す。シュート体勢に入ろうとした岩渕だが、後ろにいた阪口夢穂の声に反応し、ボールをスルー。より良い体勢で走り込んだ阪口が左足で追加点を決めた。

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著者プロフィール

ライター、女子サッカー解説者、FIFA女子Players of the year投票ジャーナリスト。主な著作に『世界一のあきらめない心』(小学館)、『サッカーなら、どんな障がいも越えられる』(講談社)、『伝記 人見絹枝』(学研)、シリーズ小説『イナズマイレブン』『猫ピッチャー』(いずれも小学館)など。構成者として『佐々木則夫 なでしこ力』『澤穂希 夢をかなえる。』『安藤梢 KOZUEメソッド』も手がける。

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