マシンの信頼性を武器に「攻める」=中嶋一貴×ブルツ ル・マン特別対談

田口浩次

ル・マン24時間レースにトヨタの1号車と2号車に乗車する中嶋一貴(右)とブルツ 【田口浩次】

 まもなく現地時間15時(日本時間22時)に決勝レースを迎えるル・マン24時間レース。その1号車と2号車にそれぞれ乗り、2007年にはF1でも同じチーム(ウィリアムズ)に所属、12年からはトヨタチームでWEC(世界耐久選手権)を戦っている中嶋一貴とアレクサンダー・ブルツに、それぞれの成長に関する印象や、今年のル・マンのポイントを語ってもらった。

F1のシートを失っても一貴の成長を願った

──最初のお互いの印象は?

ブルツ 実は彼のことは前から知っていたんだ。というのも、彼のお父さん(中嶋悟)は僕の憧れの一人だった。お父さんの戦いぶりを僕はテレビで応援する立場だったからね。日本GPで鈴鹿サーキットを走るときは、「頑張れ! 中嶋!」って感じだったよ。

中嶋 本当に?

ブルツ 一貴は最初からすごく話しやすい人物で、速いこともジュニアカテゴリーを見ていて知っていたよ。

中嶋 僕がアレックス(ブルツ)に最初に会ったのは、06年の終わり、僕がウィリアムズと契約したときだったと思います。僕はそれから、チームのブリーフィングに参加して、まだまだ僕は未熟でしたから、それこそ、アレックスから本当に多くのことを学びました。エンジニアとのやり取り、セットアップの方向性の決め方、マシン挙動などの伝え方等々。正直、今も彼からは学ぶべきことが多いです。WECというカテゴリーのマシンは本当に技術的にも複雑で、いろいろな視点から物事を見なくてはいけません。その点においても、アレックスは今でも僕の先生的な部分がありますね。僕が気付かなかったポイントを指摘したり、小さな問題の可能性を見つけたり、その解決策を提案したりと、本当に多くのことを学ばせてもらっています。

ブルツ そんなに褒められたら、今度、一貴を豪華なディナーに招待しないと(笑)。

──では、07年のチームメート時代にも一貴選手の成長を目の当たりにしたんですね。

ブルツ そうだね。本当にあの1年は一気に成長したよ。正直に言えば、一貴が成長するということは、僕にとっては自分のシートを失うことにもつながることだった。でも、僕自身の性格かもしれないけれど、僕は一貴に成長してほしいと思ったし、頑張ってシートを獲得してもらたいと思っていた。だから、僕にできる手助けは、何でも協力する気持ちだったんだ。でも、そう思うほどに一貴は良い人物で、フェアで、誰に対しても自然だったからね。

ブルツ「一貴はとんでもなく速いドライバー」

F1ウィリアムズで同僚だった中嶋一貴とブルツ。ブルツはWECで再びチームメートになって中嶋一貴の成長を感じたという 【田口浩次】

──そして、12年に再びWEC、トヨタチームでチームメートとして再会しました。同じチームでなかった5年の間に成長を感じましたか?

ブルツ 一貴はすごく成長していたよ。そして速くて良いドライバーになっていた。僕は昨年、あるインタビューで答えたんだ。今の一貴こそ、F1で走ったら、きっと周囲を驚かせるだろうってね。それほど、彼はF1を離れた後も成長を続けていたし、今も成長し続けているんだ。とんでもなく速いドライバーだよ。僕が保証する。

中嶋 彼とはトヨタチームで3年同じチームで戦っています。本当に一緒にチームを速くすることが楽しいですね。僕にとって助かるのは、僕が感じているマシンに対するフィーリングと、アレックスが感じるフィーリングが本当に近くて、マシンセットアップのブリーフィングなどでも、すごくステップアップが早く進むんです。これはとても大切なことです。そして、そうしたブリーフィングのときに、今もアレックスの方が、僕が触れなかったポイントなどを話していたりする。すごく勉強になりますね。昨年、僕たちのチームがワールドチャンピオンになれたのも、そうしたアレックスの能力がすごく役立ったからだと思います。

ブルツ 今年は僕と一貴は、1号車と2号車、別々のマシンに乗っているけれど、これもチームにとっては大きな利益を呼んでいると思う。僕と一貴は、マシンに対して似たフィーリングであったり、好みを持っているので、お互いに違うプログラムを進めて、その印象をブリーフィングで伝えることで、マシン開発がさらにスムーズになった。僕からすれば、一貴のフィーリングや説明は、何を捉えているのかが分かるので、それを自分たちの開発プログラムと照らし合わせて、より早くステップアップする道しるべを感じられるんだ。これはチームにとっても大きな利益だと思う。

アドバンテージはマシンの信頼性

昨年、優勝を目の前にリタイアした中嶋一貴。トヨタは予選7、8番手から逆転優勝を目指す 【写真提供:トヨタ】

―─さて、今年のル・マンは、昨年より厳しい戦いになりそうです。でも24時間レースは何が起きるか分かりません。

中嶋 それを昨年は痛感しましたから(笑)。

※編集注:中嶋一貴はポール・ポジションからトップを快走するも、マシントラブルに見舞われてリタイアした。

ブルツ 僕たちは、どれだけル・マンがタフかを一番知っているよ(笑)。

―─そうですね。ではどんな戦いをしていきますか?

中嶋 僕たちのアドバンテージはマシンの信頼性だと思います。

ブルツ そう、そこは大きい。昨年、僕たちは速さで勝っていて、攻めているけど、守りの戦法でもあった。今年は信頼性を武器にどんどんアタックして相手にプレッシャーを与え続けることが重要だと思う。どんなにアドバンテージがあると思っていても、何が起こるか分からないのがル・マン24時間レースだから。

中嶋 そう、戦い方としては攻める。それが今年のやり方ですね。
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