南野拓実、ザルツブルク1年目の収穫 来季を見据える目に宿る自信と覚悟

中野吉之伴

欠かせない戦力になりつつある

休むことなく攻守のさまざまな局面に顔を出す南野はチームにとって欠かせない戦力になりつつある 【Bongarts/Getty Images】

 守備面でも動きが大きく改善されている。基本的なポジショニング、プレスをかける角度、サポートにいくタイミングが整理され、チームの狙いとずれることなく連動した動きが取れるようになってきた。優勝を決めたヴォルフスベルガーAC戦(3−0)では最初のアプローチで相手にパスを選択させ、すぐさま味方サイドバックと連動してボールを奪い取るといったシーンも見られた。ポジションにこだわりすぎずに、自分が行くべき状況では躊躇(ちゅうちょ)せずにダッシュし、休むことなく攻守のさまざまな局面に顔を出そうとする。

 もちろんまだ全てが完璧なわけではない。奪いに行ったところで取り切れなかったり、相手のフィジカルに跳ね返されることもまだまだ多い。攻撃でも切り替えのタイミングが遅れ、チャンスに絡めないこともある。この点は本人も自覚している。
 
「守備のところはもう一歩行けるところとか、ちょっと遅れるのは絶対ある。それをどんどん詰めていければ。そしてあと攻撃でもっとプラスアルファ、自分のいいところを出していければいいと思います」

 南野はチームにとって欠かせない戦力になりつつある。とはいえまだ身体は出来上がっていないし、改善しなければならない点もまだ多い。チームの戦力にはなったが、主力になれたわけではない。単独で状況を打破する力を身につける必要もある。チームを引っ張る存在になるにはもう少し時間が必要だろう。しかし、どこかで期待したくなる何かを持っている。

取り組む姿勢は若き日の内田を彷彿させる

今シーズンは途中から加入した南野。来季はフルシーズンの活躍を誓う 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 ただ言われたことをやるのではなく、だからといって自分のプレーだけに固執するのでもない。クラブの一員としてプレーする責任を感じながら、自分の力をいかに発揮するかを考え続ける姿勢を目の当たりにすると、ある選手のことを思い出してしまうのだ。

 5年前、ブンデスリーガ移籍後初の練習試合で、その選手は5部リーグの相手選手との競り合いで何度も吹き飛ばされていた。5部の選手にも通用しないフィジカルで大丈夫なのか。しかしそうした心配は杞憂(きゆう)に終わった。その半年後、彼は強豪クラブのレギュラーとしてチャンピオンズリーグベスト4のピッチに立っていたのだ。今の南野の取り組む姿勢からは、あの頃の内田篤人(シャルケ)を思い浮かべてしまう。

 今シーズン最後の公式戦となるカップ戦後に、「新しい環境になじむには時間がかかると言われます。この半年間を経て、来季は開幕から自分の良さを出していくことが非常に大事になってくるのでは?」と聞いてみた。

「その通りですね。次のステップに行くためにそれが大事になってくると思います。その重要性というのは、自分が一番分かっています」

 リーグとカップの2冠を達成したが、1シーズンフル稼働して勝ち取ったタイトルではないことは誰よりも感じているだろう。カップ戦決勝では自軍のGKペーテル・グラーチ退場という事態で最初に切られたカードが自分だったという悔しさもある。まっすぐに見据えたその目には、戦いの中で培った自信とこれからの戦いに向けての覚悟が宿っていた。だが今はしばし戦いを忘れ、オフに体と頭を休ませてほしい。それもまた成長に欠かせない大切なプロセスなのだから。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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