ツォンガを支えた地元紙とファンの声援 2年前の反省生かし「錦織優勢」を覆す
ツォンガを挑戦者の立場に置いた理由
地元の声援を受けベスト4進出を決めたツォンガ 【Getty Images】
この強い錦織に、われらがジョー(ツォンガの愛称)はいかに立ち向かうのか――。
それが特集の趣旨である。
現時点での世界ランキングを見れば、錦織は5位でツォンガは15位。そのような意味では、確かにツォンガは挑戦者かもしれない。しかし過去の実績で見れば、ツォンガは全豪オープン準優勝、グランドスラムベスト4も4回経験している。ランキングの下降も、ケガによる不調や4カ月の欠場期間の影響があった。
それでもあえて、ツォンガを挑戦者の立場に置いたこれら『レキップ』の記事は、地元の英雄を全面的にサポートしたいとの強き願いの裏返しでもあり、過去の“失敗”の悔恨にも根ざしていた。2年前の全仏オープン、準々決勝でツォンガが第2シードのロジャー・フェデラー(スイス)を破った時、フランスメディアは、これで決勝進出は決まったかのような雰囲気をつくり上げてしまった。それが会場に足を運んだ観客に伝播し、どこか弛緩した空気を醸成する。ツォンガは準決勝、それまでの勢いが嘘のようにミスを重ね、ダビド・フェレール(スペイン)の前にあっさりと敗れた。
その時の反省が、『レキップ』にもあったのだろう。そしてファンも、恐らくは同じ轍を踏むまいと気合いが入っていた。いつも出足はのんびりしているフランスの観客が、この日は錦織対ツォンガ戦の開始に合わせて続々とセンターコート“フィリップシャトリエ”に足を運び、選手入場の時点から、ツォンガに熱くも温かい声援を送った。
アクシデントで冷静さを取り戻した錦織
本人は否定したが、アウエーのセンターコートで戦う緊張もあったろうか。動かぬ足をほぐすかのように小刻みに飛び跳ね、足を前後に振る姿が何度も見られた。最初の自分のサービスゲームでは、彼らしくないフォアのミスを3本重ねるなど、相手の緩いペースに得意の早い攻めが食い込まない。このゲームをブレークされると、そこからは坂道を転がり落ちるように、次々とポイントを失っていった。
錦織が「自分を見失っていた」なか、試合はツォンガが第1セットを6−1で奪い、第2セットも5−2と大きくリードする。しかしこの場面で、スタジアムのスコアボード周辺に設置された鳥よけの金属板が、強風にあおられ落下するアクシデントが発生する。その処置のために試合が30分以上も中断され、そうして戻ってきたとき、錦織は冷静さと自分のゲームプランを取り戻していた。
明らかに、足がよく動いている。すばやくボールの落下点に入り、体を引き絞るように構えて腕を振り抜くと、快音を響かせ、鋭い打球がコート深くに次々と刺さった。第2セットは落としたが、第3セットは、ツォンガのセカンドサーブを完璧なタイミングでたたき、リターンウイナーでセットを奪取。第4セットも、ドロップショットやボレーも織り交ぜる変幻自在のテニスで奪い返し、ついに試合を五分に戻した。