ツォンガを支えた地元紙とファンの声援 2年前の反省生かし「錦織優勢」を覆す

内田暁

赤土に書かれたファンへのメッセージ

勝利後、自らを「T」に見立てファンにメッセージを送った 【Getty Images】

 スコア上は互角だが、勢いは明らかに、追い上げる錦織にある。
 しかし、グランドスラム準決勝の舞台を過去5度経験しているフランス人は、冷静だった。

「第5セットは、サーブが安定していた。サーブで常に彼にプレッシャーを掛けることができた。そして深いボールを打ち、彼を押し下げようと思った」

 最終セットのツォンガのファーストサーブの確率は、この日最高の74%を記録。第4ゲームのブレークポイントでは、強烈なフォアを深く打ち込むと一気にネットに詰めて、プレッシャーを掛けた。その圧力に押されるように、錦織のフォアはラインを逸れていく。あとは、時速200キロを超えるサーブをコーナーへとたたき込み続けた。最後の最後で、ツォンガのゲームプランはシンプルであり、そして最も彼らしかった。

 勝利後にツォンガは、彼の名を叫び続ける観客の声援を浴びながら、たっぷり時間を掛けてコートの土に「ROLAND JE  ’AIME」とシューズで書くと、「JE」と「’」の間に大の字になり寝そべった。それは、自らの身体を「T」に見立てた粋なサイン。「ROLAND JE T’AIME」。日本語に訳せば「ローラン、愛している」の意である。

「いつか、やろうと思っていたことなんだ」という取って置きのファンへのメッセージをこの日にやったのは、それだけ錦織戦の勝利がツォンガにとって大きな意味を持つということ。そして、この日に向けてメディアとファンが一体になり醸成した空気が、それだけツォンガの心を震わせた証だろう。

 やはりこの国には、テニスの歴史がある。1983年のヤニック・ノア以来となる、フランス人全仏優勝者誕生に懸ける悲願がある。

 この日、錦織が挑み敗れたもの――それはメディアやファンの成熟度も含めた、フランステニスの文化そのものかもしれない。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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