「コーチング」で進化したヤングジャパン ラグビーU20世界大会に挑む

斉藤健仁

強豪・オーストラリア、サモアに健闘

堀越主将(中央)を中心に成長を見せるU20日本代表 【斉藤健仁】

 ペニー氏が実際に指導にあったのは組織ディフェンスだった。基本であるラックからの両サイドにピラー(1人目)、ポスト(2人目)が立つことの徹底、さらに、ボールが出たサイドの反対側のピラーが、ボールが出たサイドに動くという形も導入(ディフェンスの人数を増やし、ダブルタックルを狙いやすくするため)。ただU20日本代表が「ジュニア・ジャパン」として戦った「パシフィックチャレンジ」ではカナダA、フィジーA、トンガAに4連敗。さらに5月にオーストリアで行われた「U20オセアニア選手権」では初戦、NZ代表に0対75で大敗した。

 NZ戦ではキックを軸にスペースを攻められたという反省を踏まえて、大会に帯同していたペニー氏は、「ペンデュラム」という組織ディフェンスを導入する。直訳すれば「振り子」であり、相手の攻撃に対応して、バックスリーの3人とSH(スクラムハーフ)が左右に振り子のように動いて相手のスペースを埋めるという基本的な考えだ。ただ、BKの4人だけが理解していても、攻撃が継続されるとスペースが埋められない場合も多いため、大きなピッチの図の下、FWも含めた15人全員が理解し、動くことができるようにチームで取り組んだ。

 すると「今年のチームは練習であまりやらなくても、ミーティングでやればできる。理解度が高い」と中竹HCが言うように、続くオーストラリア代表戦で、課題を修正し、31対47で敗戦したが、残り15分までリードするなど善戦。さらに3戦目、サモア代表戦では30対33と接戦を演じた。「本当に学びの多い遠征でしたし、選手たちは自信になったと思います」(中竹HC)

「シェイプ」、「ポッド」を組み合わせる

「トライを取り切りたい」と力強く語る尾崎晟也 【斉藤健仁】

 アタックでは「走り勝つ」ことを掲げ、まず、「アタック・シェイプ」のように順目に攻撃を繰り返す「0パターン」を練習した。そしてオーストラリア遠征から、フィールドの中央を強みであるFWで近場を攻めて両サイドにBKラインを敷く「ポッドアタック」のような「15パターン」にも取り組み、サモア代表戦ではトライも挙げた。副将のWTB/FBの尾崎晟也(帝京大2年)も「大会では戦術的にBKのチャンスが増えてくると思うので、トライを取り切りたい」と意気込んでいる。

「ここまでの強化は順調」と中竹HCは言うものの、U20年代と言え、ほぼプロ選手やそのアカデミーのみで構成されているチームも多い世界のトップ12の強豪が相手だ。中竹HCは「まだチーム状態は40%くらい。この世代は1年しか強化期間がないので、大会に行ってからどれくらい成長するかが大事」と伸びシロに大きな期待を寄せる。

中竹HC「残留という結果は必ず果たす」

今大会で結果を残し、19年ワールドカップ日本大会で中心を担うことが期待される 【斉藤健仁】

 ペニー氏はイタリアには帯同していないが、電話やメールで連絡を取っているという。中竹HCは「トップリーグや大学、みんなの力を借りてここまで来ました。だから残留するという結果は必ず果たして帰ってきたい」と自分にも言い聞かせるように、力強く語った。

 来年、日本代表に準じるチームがスーパーラグビーに参入し、2019年に日本でワールドカップを控えている。その中心を担う可能性の高いU20年代の強化の歩みを止めないためにも、U20チャンピオンシップで戦い続けることは大きな意味を持つ。初戦は6月2日、最終戦は20日である。イタリアでさらなる飛躍を遂げて、「残留」という目標を果たし、強化のバトンを次につなげるか。

【書籍紹介】「ラグビーは頭脳が9割」

【東邦出版】

 2015年9月のイングランドW杯、16年の「スーパーラグビー」参戦、19年の日本W杯……今こそ日本ラグビー界は、指導者、選手、観戦者なども含めてラグビーインテリジェンスを高め、ラグビーの新たな扉を開くべき時。しかし、どうやったら日本のラグビーは強くなるのか? 世界の強豪のプレーを真似る? それもOKだが、体格や身体能力の違いは否めない。であるならば、日本ならではの戦い方で強くなり、世界に打ち勝とう!という思いのもと、本書は制作された。

 日本代表のエディー・ジョーンズHCの言葉を借りれば、「JAPAN WAY」となる。幸い、トップリーグでは世界的名将と言われる監督たちが指揮をとり、日本人に適した形でラグビーの“国力”を上げてくれている。トップリーグだけでなく、大学や高校も戦略や戦術、新しい思考や取り組みを実践している。それぞれに共通するのは、経験豊かな指揮官が指導し、戦略や戦術を磨き、創意工夫して練習やトレーニングを積み重ねたからこそ、結果に結びついたこと。その強さの裏にあるチームがもつ信念、哲学も知ってもらいたい。

 ラグビーの指導者や選手たちにとっては、自らのチームを少しでも強くするようなヒントやきっかけになり、ラグビー・ファンには、指導者や選手がどういった考えでプレーしているかを知り、スマートなラグビーに触れて、より「ラグビーが楽しい!」と思ってもらえる一冊だ。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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