ベテランと若手が合宿で得た自信と危機感 ハリルホジッチが示した「世界基準」

元川悦子

危機感と強い決意を抱いたベテランたち

W杯ブラジル大会以来の代表合流となった大久保。ハリルホジッチ監督のスタイルに自信と手応えをのぞかせた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

「2日間の練習だけど、疲労感は強い。普段どれだけやってないか。やってるつもりだけれども、1つ1つの練習への意識の低さがあったのかな」

 2日間にわたる濃密なハリルホジッチ流のトレーニングを、そう振り返ったのは、3月に続いて参加した今野泰幸(G大阪)。32歳のベテランは、同じボスニア・ヘルツェゴビナ出身の元代表監督、イビチャ・オシムの指導と比較しながら、こう続ける。

「オシムさんも考えさせる人だったけれど、ハリル監督は『考える+フィジカル』という意識も必要。かなり難しいと思います。速いスピードで動きながら、技術も発揮しなければいけないということだから、今までのようじゃダメ。世界のスタンダードに近づくには、もっともっと経験して、意識も変えてかなないといけない。最後に円陣を組んだのもそうだけれど、監督は日本のサッカーをすごく変えようとしてくれてる。僕らもW杯で惨敗して、何か変えないと世界では勝てないと自分でも分かっているのでいいと思います」

 またW杯ブラジル大会以来の代表合流となった大久保も、ボール奪取からタテに速く攻めるこのスタイルを好意的に受け取った。「今までにない代表チームのやり方なので新鮮。運動量や走力も求められるので、『俺、できるな』と。もう1回、そういう体を作っていけばいいし、今を維持すれば大丈夫じゃないかと思います」と語り、自信と手応えをのぞかせた。確かに、初日から大久保は守備面でのハードワークを怠らず、ゴールに向かう鋭さも際立っていた。ハリルホジッチ監督が「32歳であろうが、全く問題ない」と太鼓判を押した通りのパフォーマンスを披露したと言っていい。

 大久保にしても今野にしても、3年後のロシア大会はギリギリの年齢。だからこそ、この先もコンスタントな活躍が求められる。「自分はもう点取るだけ。他の若い子たちより取らないと、年齢的に選ばれないと思う。ちょっとでも落ちたら、もう選ばれない。それは覚悟しているから」と大久保が危機感をにじませると、今野も「同じボランチに米本(拓司=FC東京)とか谷口(彰悟=川崎)とか、特徴を持った若くていい選手が入ってきた。彼らに負けないように自分を磨いて、求められるサッカーを体現できるようにしないといけない」と強い決意を口にしていた。確かにアルベルト・ザッケローニ監督時代も、予選の間は、中村憲剛(川崎)や駒野友一(ジュビロ磐田)らが主力級の働きをしていたが、最終的には本大会メンバーから漏れている。その厳しさを彼らは頭に入れつつ、ハリルホジッチ監督の要求に全力で応えていくつもりなのだろう。

世代交代への意欲を見せた若手たち

宇佐美(左)ら若手も合宿で多くを学び、刺激を受けた様子だ 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 一方、指揮官からチャンスを与えられた若手、代表実績の少ない面々も、この合宿から学んだことは非常に多かったという。その筆頭が宇佐美貴史(G大阪)。彼は過密日程のためか扁桃炎(へんとうえん)を患い、声がまともに出ない状態で練習に臨んでいた。にもかかわらず、シュート練習では大久保に匹敵するほどの高い決定率を披露。3月の合宿以上に代表の自覚を強めているようなコメントを残している。

「合宿では刺激をもらいましたし、監督からありがたい話もしてもらいました。裏への意識だったり、献身的にやることだったり、連戦が続いてできていなかった部分もあった。ここで刺激をもらって、また新たな気持ちでやっていきたいです。6月の予選も(代表に)入れるようにアピールしたい。そこがまず近くの目標です」

 今回、最年少だった浅野や岩波拓也(ヴィッセル神戸)らリオデジャネイロ五輪世代も、十分やれるという前向きな印象を受けたようだ。いずれのコメントからも世代交代への意欲が感じられた。

「代表は本当に技術の高い選手ばかり。自分は技術面では物足りなさを感じました。でも、自分が持っているものはハッキリしてますし、そこは自信があります。技術も大切ですけれど、持っているものを100%出すようにしていければ補える。近い将来、A代表に定着できるか分からないけれど、常に100%でやっていれば自然と結果も残るし、またこういう場に戻ってこれる」(浅野)

「今季Jで試合に出続けているので、ある程度やれる自信はありました。ただ、相手FWに入ったボールに対するディフェンスは、個人的にもまだまだ甘い。ハリルホジッチ監督は球際のところをすごい要求するので、そこを強くしたいです。A代表は今、歳の近い選手が中心になろうとしている。そういう中で今回、五輪世代3人が入ったけれど、自分たち次第でもっと多くの人が入っていける可能性もある」(岩波)

6月の予選へのサバイバルは続く

岩波(中央)ら若手が代表に食い込む可能性もある。今回のメンバーから6月の予選では誰が生き残るか 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 あらためて日本代表の陣容を見ると、欧州組の香川真司(ドルトムント/ドイツ)や長谷部誠(フランクフルト/ドイツ)、清武弘嗣(ハノーファー/ドイツ)らがいる中盤に比べて、センターバックとFWの人材不足が以前から指摘されてきた。今回、センターバックは森重真人(FC東京)、水本裕貴(広島)、槙野、昌子源、植田直通(いずれも鹿島アントラーズ)、岩波の6人が呼ばれたが、代表での経験値は森重以外はあまり差がない。高さとポテンシャルという点が評価されて、岩波や植田が食い込む可能性も少なからずあるのだ。

 一方のFWにしても、国際Aマッチ43得点の岡崎慎司(マインツ/ドイツ)と28得点の本田圭佑(ミラン/イタリア)以外、確固たる得点源がないのが実情。この合宿で存在感を示した大久保、宇佐美、けがで離脱した武藤らに、若い浅野や杉本らが絡めば、チームとしてもっと厚みのある攻めができるはずだ。

「監督が週末の試合(浦和対FC東京戦)を見に来るから、なおさやらないといけない」と語っていたのは槙野である。今回のメンバーから6月の予選で誰が生き残るかは、今後2週間のJリーグでのパフォーマンス次第だろう。その一挙手一投足のすべてが先につながってゆく。日本の抜本的強化のためにも、選手たちには世界基準への強い自覚を持ってプレーしてほしい。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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