ハリルホジッチが得た「リスク」の対価 指揮官の非凡さを感じさせた3つの要素

宇都宮徹壱

このタイミングでなぜアジア勢と対戦?

チュニジア戦からスタメン総入れ替えとなった日本だが、ウズベキスタンに5−1と圧勝した 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 ヴァイッド・ハリルホジッチ新体制となって2戦目の相手は、中央アジアのウズベキスタン。日本にとっては、ワールドカップ(W杯)予選でなじみ深い相手である。両国は過去に9回対戦しており、結果は日本の5勝3分け1敗。直近の対戦は、2012年2月29日に豊田スタジアムで行われたW杯アジア3次予選で、そのときは0−1で敗れている(日本はすでに最終予選出場を決めていた)。最新のFIFA(国際サッカー連盟)ランキングは72位(日本は53位)。今年1月のアジアカップでは、準々決勝で韓国に敗れており(延長戦で0−2)、日本と同様ベスト8で大会を去っている。

 今回、ウズベキスタンとの対戦成績を調べてみて気付いたのだが、過去9試合のうち8試合は、いずれもW杯予選やアジアカップでの対戦、つまり公式戦となっている。唯一のフレンドリーマッチは、96年9月11日に東京・国立競技場で「日本サッカー協会75周年記念大会」と銘打たれ、この時は日本が1−0で勝利している(これが両国の初顔合わせ)。それから実に19年ぶりとなる今回の親善試合。これまでなかなか実現しなかったのは、おそらく興行的な意味合いもあったのだろう。

 では、このタイミングで日本がアジア勢と対戦するのはなぜかと言うと、言うまでもなく6月から始まるW杯アジア2次予選をにらんでのことである。組み合わせはまだ決まっていないが、予選のシードは4月9日に発表されるFIFAランキングをもとに振り分けられる。アジアでのランキングの序列は、イラン、日本、韓国、オーストラリア、UAE、ウズベキスタン、中国、オマーンとなっており(上位8チームが第1シード)、今のところウズベキスタンと2次予選で同組になる可能性は低い。おそらく前任者のハビエル・アギーレは、そこまで考えた上で今回のカードをリクエストしたものと思われる。

 対戦相手は、集客のアピール度ではあまり期待できないアジア勢。しかもハリルホジッチは、先のチュニジア戦(2−0)で出番のなかった選手を多数起用することを明言している。スタメンの顔ぶれによっては、興行的には度外視となりかねない、東京スタジアムでのウズベキスタン戦。だがフタを開けてみたら、なかなかどうして、いろいろ見どころの多い試合展開となった。

5点のうち3点が「代表初ゴール」

宇佐美(写真)ら3選手が代表初ゴールを挙げるなど、新戦力の活躍が目立った 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 この日のスターティングイレブンは以下のとおり。GK川島永嗣。DFは右から内田篤人、昌子源、森重真人、酒井高徳。中盤は守備的MFに今野泰幸と青山敏弘、右に本田圭佑(キャプテン)、左に乾貴士、トップ下に香川真司。そしてワントップには岡崎慎司。前日に監督が明言したとおり、チュニジア戦から11人が総入れ替えとなったが、昌子(これが代表初キャップ)と乾を除く9人は昨年のW杯メンバー。とりわけ攻撃の4枚は、「いつもの顔ぶれ」である。

 まずは得点経過を中心に、試合のハイライトを振り返ることにしたい。日本の先制ゴールが生まれたのは、開始早々の6分。乾の左からのCKはいったん相手GKのパンチングでクリアされるも、後方で待ち構えていた青山が迷うことなく右足ボレーを繰り出す。弾道は、およそ30メートル先のウズベキスタンのゴール右隅に突き刺さり、青山にとっては代表8試合目にしてうれしい初ゴールとなった。だが、その後はウズベキスタンの献身的な守備に阻まれて追加点を奪うには至らず。前半は日本の1点リードで終了する。

 後半、日本ベンチは積極的な選手交代を行い、いずれも面白いように的中した。9分、香川からのパスを受けた乾が一気にバイタルエリアに侵入。いったんはDFがブロックされたものの、左サイドを駆け上がった太田宏介(後半開始時に内田と交代)がこぼれ球を折り返し、これを岡崎がヘディングで決めて追加点とした。後半35分には、相手FKのルーズボールを柴崎岳(後半24分に香川と交代)がハーフライン付近で拾うと、ペナルティーエリアを飛び出していた相手GKの背後に大胆なループシュートを放つ。このボールを岡崎が必死で追いかけ、背後を走る相手選手をブロックしながら自らはボールに触れることなく、しっかりゴールインまで見届けた。ハリルホジッチは、この珍しいゴールシーンについて「彼はチームのために、そうした行動をとった。実に素晴らしいことだ」と岡崎を絶賛している。

 その後、ウズベキスタンは後半37分にトゥフタフジャエフのゴールで2点差とするも、わずか1分後に日本がダメ押しの4点目。後半18分に乾と交代した宇佐美貴史が、得意のドリブルで抜け出して右足を振り抜き、ゴール左隅に鮮烈な代表初ゴールをたたき込む。さらに終了間際の45分には、右CKから混戦となり、最後は森重からの浮き球パスを川又堅碁(後半38分に岡崎と交代)が頭でねじ込んで、これまた代表初ゴールとなった。結局、5−1という派手なスコアで日本がウズベキスタンに完勝。特筆すべきは、日本の5得点のうち実に3点が代表初ゴールだったことだ。そして岡崎を除く4人の得点者が、いずれもJリーガーだったことも、個人的にはうれしく感じられた。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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