12年MVP・日本ハム吉川に復活の兆し 戻るのではなく、上を行く新スタイル

ベースボール・タイムズ

投球の幅を広げた新球スプリット

栗山監督(左)は優勝へのキーマンに吉川を挙げる。「少しずつだけど前に進んでいる」と喜ぶ指揮官の期待に応えられるか 【写真は共同】

 ストライク先行とともに、大きな支えとなっているのが“新球”の存在だ。かつての吉川と言えば、150キロを超える力強いストレートに宝刀スライダーと110キロ台の沈むカーブで打者を翻弄(ほんろう)していた。だが、今季から新たにスプリットを武器としている。

 試合で投げ始めたのは登板2試合目、4月8日の西武戦からだが、吉川自身が「使える」と意識したのは3試合目、同15日のロッテ戦になる。この日、ロッテの伊東勤監督は左腕・吉川を攻略するために、1番から9番まで全員右打者を並べた。その作戦に対し、初回こそ2安打を浴びる苦しい立ち上がりだった吉川は、ピンチを無失点で乗り切ると、2回からは一気にギアを上げて打者を手玉にとる。そして相手バッターの目が慣れてきた2巡目以降に新球スプリットを多投。その効果は絶大で、4番・デスパイネを140キロのスプリットで空振り三振に仕留めると、4回から降板する7回まで見事なノーヒットピッチングを披露してみせた。

 今季から覚えた“落ちる”球で投球の幅を広げた左腕。MVPを受賞したかつての自分に戻るのではなく、その上を行く、新たなスタイルを身につけた瞬間だった。

喜ぶ指揮官「もっともっと」と背中押す

 今季は体調面の管理も徹底。オフに人生初の「断食」を行い、余分な脂肪を落とすことに成功し、開幕から体重を78キロでキープしている。このコンディション維持も好調の要因の1つだろう。そんな吉川の復活を、誰よりも待ち望んでいたのは、誰であろう栗山英樹監督だ。

 昨季3位でシーズンを終えた指揮官は、今季の優勝へのキーマンに「吉川」を挙げていた。もちろん、それは今回に限ったことではない。能力の高さは、かつてのMVP受賞で実証済みなのだ。思い返せばブレークした12年は、絶対的エースのダルビッシュ有(現レンジャーズ)がメジャーへ飛び立ち、大きな戦力ダウンは免れないと思われていたシーズンだった。栗山監督にとっても就任1年目。そうした状況下でのリーグ優勝は、吉川の大活躍に支えられた面が非常に大きい。だからこそ、栗山監督は不調に陥った左腕に「俺も悪いが、吉川も悪い!」と厳しい言葉を浴びせ続けた。

 指揮官の願いは今季かなおうとしている。復調の兆しを見せる元エースに対して、「力でねじ伏せる吉川らしさがよみがえってきてくれてうれしい。少しずつだけど前に進んでいる」と素直に喜びを表現する。そして、「もっともっと良くなってほしい」と背中を押す。

「監督の期待に応えられるよう、信頼を重ねていきたい」

 重圧に押しつぶされ、期待に応えられない悔しさを味わう日々だった吉川が、2年間の試練を乗り越えて、ようやくかつての輝きを取り戻そうとしている。栗山監督の願い通り、「もっともっと良く」なれば、3年前に手にした栄冠も再び見えてくるはずだ。MVP左腕の踏み出す一歩が、日本ハムのV奪回への確かな一歩になる。

(文:鈴木将倫/ベースボール・タイムズ)

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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