湘南にとって不可欠な三村ロンド<後編> Jを支えるプロフェッショナル 第1回

隈元大吾

メインナビゲーターに就任

ロンド(右)は2014シーズンよりメインナビゲーターとして活躍している 【写真提供:湘南ベルマーレ】

 迎えた2014シーズン、それまでメインを務めていた田子さんがアドバイザーに就任し、ロンドがメインのスタジアムナビゲーターを務めることになった。就任に際し、クラブの公式サイトにこんな言葉を寄せた。

「監督や選手のみんなには、GET3のため気持ちを最大限に高めてもらえるように。ベルマーレを愛するサポーターの皆さんには、楽しく参加でき、選手とともに一体となって闘える空間を。そして初めて来た方やアウェーサポーターの皆さんには、結果に関係なく、また来たいスタジアムに。選手、スタッフ、サポーターの皆さんとともに『湘南しかできない魅力ある劇空間』をつくり上げていきたい」

 劇空間の最たるものは「コール&レスポンス」だろう。ゴールが決まったときなどにスタジアムナビゲーターが名字を呼び、対してサポーターが名前を呼んで応えるというもので、チョウ・キジェ監督のリクエストで14年より始めた。ロンドはブンデスリーガやセリエAなど海外の映像をひと通りチェックし、湘南に合うようアレンジしてBMWスタジアム平塚(湘南のホームスタジアム)を盛り上げた。しかし、やはりライブで見なければと、昨冬には遅い正月休みを利用して、2泊4日でドイツに飛び、バイエルン対シャルケの試合を現地で観戦した。今季より選手紹介にもコール&レスポンスを取り入れたのは、このゲームで見た光景が元になっている。

進化を遂げる湘南スタイル

試合日のスケジュールは多忙を極めるスタジアムナビゲーター。サポーターとともにチームを出迎えるシーンも 【写真提供:湘南ベルマーレ】

 ロンドのホームゲームの1日は、開門2時間前にスタジアムに入るところから始まる。ミーティングや入場に関するアナウンスを行ない、メンバーが発表されたら、コールする際に間違いのないようホワイトボードに整理する。開門したら「勝利への花道」としてサポーターとともにチームを出迎え、その後ブースに戻り、アシスタントの相澤香純さんとともに大型ビジョンを利用してグッズ紹介などを行なう。そしてコール&レスポンスでスタジアムの一体感を高め、キックオフ直前には大急ぎでメインスタンドに駆け上がり、「みんなに参加してもらう機会を増やすために」再度コール&レスポンスで盛り上げる。スタンドに上がるアイデアは鳥取時代、ゴール裏で選手紹介を行なった経験が生かされている。

 常に心掛けていることがある。

「選手が主役であり、彼らを彩るサポーターもまた主役だと思っているので、そこで僕は脇役としてどう盛り立てていくか。ナレーションの際にも番組によってテイストを変えられるところで僕自身勝負しているように、空気を感じ、周りとのバランスをとりながらサポートしたいと思っています。みんなの前で、僕が黄色い帽子をかぶって存在しているところでは、たくさん笑って楽しんでもらいたい。でもみんなには姿が見えない声だけのときは、別人だと思われるぐらい、格好良く決めたいですね」

 湘南に携わるようになって今年で13年目、ホームの景色の変化を肌で感じている。コール&レスポンスが相手チームの脅威になっているという声も耳に届く。「ゴール裏から埋まっていることがすごくうれしい」。目を細め、さらにこの先に想いを馳せる。

「何の変哲もない陸上競技場だけれど、熱狂的なサポーターが増えたという実感もあるし、僕らでしかつくれない空気が徐々に生まれていると感じます。湘南スタイルが深化を遂げながらクラブに脈々と息づいていくように、演出や放送の面も、僕がこの先もし去ったとしても継承されていくようなものにしたい。先代の田子さんが築いた良さを守りつつ、僕自身一人のパフォーマーとして新しい味も加えながら、常に全力でハードワークして、僕らも湘南スタイルを進化させていかなければいけない」

 引退するときのイメージはできていると、ちゃめっ気たっぷりに言う。「山口百恵さんがステージの中央にマイクを置いたのと同じように、僕は帽子を置きます。その時はピンスポットを当てて演出してもらおうかな」と、エンターテイナーはいかにも楽しげに笑った。

 とはいえ、そのもくろみは果たされるだろうか。「帽子を脱いだら子どもがキョトンとする。キャラクターとして完全に成立しちゃってるんです。いつのまにか僕にとってなくてはならないものになっていました」。黄色いトレードマークは、そう簡単に手放せそうにない。

(協力:Jリーグ)

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著者プロフィール

湘南ベルマーレを中心に取材・執筆。クラブオフィシャルの刊行物をはじめ、サッカー専門誌や一般誌等に幅広く寄稿。

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