キズナの取捨―春の盾は復活の舞台か否か 3走目の出来、距離不安を探る

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マイラー色が濃くなっている?

一方で、マイラー色が濃くなっているのでは……という意見も 【スポーツナビ】

 そうなると、あとは3200メートルという距離。これはキズナ自身の出来以上に不安の声が上がる要素かもしれない。これに関しては匿名という条件で、あるトラックマンがそっと耳打ちしてくれた。

「年齢が進むにつれて、ますますマイラー色が濃くなってきているのではないか」

 母の父がスピード短距離型のストームキャットという血統に加え、馬体のつくりからも、キズナを管理する佐々木晶三調教師はかつて「本質的にはマイラー」と話していたこともある。類まれな素質・身体能力と、調教の過程で2400メートル級のビッグレースを勝つまでに成長したキズナだが、年を経るごとに“本質”の部分がより顕在化してきたのかもしれない。

 また、前述のトラックマンは、キズナの出来そのものにも疑問を投げかけている。

「1週前追い切りは確かに時計は出ていたけど、なんて言うのかな、うなるような、弾むような感じがまだ出ていない。一番良かったころに比べるとフットワークに伸びがない、というかね。以前はもっと体全体をうまく使っていた感じがしていたけど、まだセーブしているような走りだった」

 確かに徐々に良くなっていることは認めるものの、抜群の出来だった2年前のダービー時にはまだ及ばない、という見解のようだ。

「もちろん上積みはあると思う。でも、やっぱりダービーの出来と比べてしまうと迫力に欠けるというか……。あんなにまとまっている感じの馬ではなかったからね。骨折の影響が大きいのかな」

不安を一蹴してこそ――強いキズナが見たい

凱旋門賞の夢へ向けて“強いキズナ”が見たい! 【写真:中原義史】

 このトラックマンが語る通りであるならば、“キズナは天皇賞・春でも危うし、完全復活はまだ遠い――”という結論にならざるを得ない。だが、それでもまだ1週前の時点での話だ。勝羽記者が上積みを強調しているように、1週前追い切りを経て、29日の最終追い切りをクリアすれば、出来はさらに上昇することだろう。そして、ささやかれている不安を打ち破ってこそ、真の強者だ。勝羽記者が力を込めて言う。

「高松宮記念を勝った香港のエアロヴェロシティも、海外輸送で馬体を減らしていましたし、ベタ爪で雨馬場も得意ではないなど不安材料があった。それでも最後はきっちりと勝って、香港最強スプリンターの意地を見せてくれました。これが海外で勝ちきる馬の強さなんだと思います。凱旋門賞という大目標があるキズナも、出来や距離といった不安を一蹴して勝ってこそ、海外への夢が広がります。僕も強いキズナが見たいですからね」

 前線記者でも意見が分かれるであろう、キズナの取捨。まずは29日最終追い切りの動きと、その後の武豊、佐々木晶調教師が何を語るのかを、つぶさに注視していきたい。そして本番当日の淀、キズナはどこまで状態を上げているのか、距離不安を一掃するような爆発的な末脚を見せてくれるのか――個人的には、勝羽記者が話したように“強いキズナ”が見たいのだ。

(取材・文:森永淳洋/スポーツナビ)

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