イチロー依然健在、問題はチームの不振 “理想的なスーパーサブ”生かせるか

杉浦大介

心強い存在、ヤンキース時代と変わらず

イチローの役割はヤンキース時代と変わらない。マーリンズには“理想的なスーパーサブ”が生きるゲーム展開を期待したい 【Getty Images】

「全盛期とはもう別の選手だけど、まだまだ貢献のすべは見つけられるよ。イチローのような多彩なタイプは指名打者のないナ・リーグではより生きる。今後、マーリンズがプレーオフを争うような位置まで上がっていくことがあった場合、貴重なピースになっていくと思う」

 元『スポーツ・イラストレイテッド』誌の記者で、現在はフリーライターとして健筆を振るうジョー・レミアはそう分析する。

 筆者もヤンキース時代から言い続けているが、現在のイチローはいわば“理想的なスーパーサブ”。外野陣が強力なマーリンズでは守備固めはあまり必要ないとはいえ、3つのポジションをハイレベルでこなせるベテランの存在が心強いことは言うまでもない。スピードは依然として代走を務めるのに十分な上に、週に数試合なら先発もこなせるだけの打力も保っている。

 キャリアのこの時点で常時スタメンを張るのは厳しいとしても、優勝を狙う強豪の切り札として、特に若手の多いチームにとって、イチロー以上の控え選手はなかなかいないのではないか。

イチローの武器が生きるゲーム展開を

 ただ……現在の問題は、前述通りマーリンズが低迷してしまっていることである。弱小チームの強力クローザーがほとんど“宝の持ち腐れ”なのと同様に、リードされる展開ばかりであれば、海千山千の控え外野手の利用機会も限られてくる。このままチームが完全に沈没するようなことがあれば、41歳の外野手はほとんど無用な存在になってしまいかねない。

 もちろん、まだシーズンのわずか7%が終わった時点なのだから、過剰反応するべきではないのかもしれない。ただ、マーリンズは03年以降は一度もプレーオフに出場していない負け癖のついたチーム。早くも首位から7ゲームも離されている現状で、マイアミのファンも心中穏やかではないだろう。

「代打、守備固め、重要な場面での打席、対左……どんな状況でも自信を持って彼を起用できる。彼の多彩さはこのチームにフィットしているよ」

 マイク・レドモンド監督の言葉は正しい。しかし今後のポイントは、その多彩な武器を生かせるだけのゲーム展開が徐々に増えていくかどうか。それだけの底力が、即席構成の印象も残るマーリンズに備わっているかどうか。

 マーリンズは過去にも“短期間の大型補強→不振→チーム解体”という流れを何度も繰り返してきたチームだけに、負けが込めば、イチローに関しても放出などの厄介な噂(うわさ)話が飛び出しかねない。そんな不穏な事態を避けるべく、早くも7に膨らんだ借金を減らすべく、マーリンズは勝ち始めなければいけない。

 将来の殿堂入り選手も、もうチームの浮沈を左右する立場ではないだけに、今後は周囲の若手たちの復調次第の面があるのも事実。厳しい幕開けとなった灼熱の地・フロリダでの新章を熱くするために――。まずはスタントン、イエリッチ、マルセル・オズーナといった新しい仲間たちの爆発が待たれるところである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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