イチロー依然健在、問題はチームの不振 “理想的なスーパーサブ”生かせるか

杉浦大介

ダークホースの評価も期待外れ

新天地でもイチローは健在。走行守を今なおハイレベルでこなせることを証明している 【Getty Images】

 現地4月19日(日本時間20日。以下、すべて現地時間)、ニューヨークで行われたメッツとの4戦シリーズ最終戦で、イチローにとっての見せ場は3対7とリードされた7回表に訪れた。

 無死一、三塁の得点機で、過去17打数7安打と相性の良い31歳の左腕ジェリー・ブレビンスと対戦。投手の代打で出たイチローが打てば上位打線につながるだけに、一気の追い上げも可能に思えた。しかし……。

 ノーボール1ストライクからの2球目を打ったイチローの打球は力なく飛び、一塁へのハーフライナーに終わる。その後に相手投手の暴投で1点を返したものの、後続打者も打ち取られ、ビッグイニングにはできなかった。

 追撃及ばず6対7で敗れたマーリンズは4連敗。開幕前にはプレーオフを争う同地区のライバルになると目されたメッツに4戦スイープを喫し、これで2015年は3勝10敗という厳しいスタートとなった。

「憤っているよ。腹が立ったし、フラストレーションもたまるけど、(シリーズは)もう終わったんだ。また先に進むだけだよ」

 メッツとの4戦で18打数2安打8三振に終わったクリスチャン・イエリッチがそう吐き捨てた姿は、現状を象徴しているのかのようだった。

 イチローが今季の新天地に選んだマーリンズは、一般的にナ・リーグ東地区のダークホースに挙げられることが多かった。オフには昨季本塁打王のジャンカルロ・スタントンに13年3億2500万ドル(約377億円)の大型契約を与えて球界を仰天させ、伸び盛りのイエリッチとも再契約。さらにマーティン・プラード、マイク・モース、ディー・ゴードン、イチロー、ダン・ハレン、マット・レートスといった実績ある選手たちを次々と補強するなど、フロントも勝利への意欲を示してきた。

 ところが、まだ序盤戦とはいえ、好守がかみ合わないここまでは完全に期待外れになってしまっている。

イチローは随所に存在感を発揮

16日のメッツ戦ではクロスプレーの際、華麗な身のこなしでホームイン。トリッキーな走塁で沸かせた 【Getty Images】

 そんな厳しい状況下でも、イチローはメッツとの4連戦中にも随所に存在感を示してはいた。1点を争う接戦となった16日には、代打で登場して右中間に三塁打を放つ。その後、いかにもこの選手らしいトリッキーな走塁でほぼ満員のスタジアムを沸かせてくれた。

 続く打者の二塁ゴロで三本間に挟まれそうになったが、送球がそれたのを見て、41歳のスピードスターはホームに再突入。一度はアウトと判定されたものの、ビデオ判定の末にホームインが認められるというスリリングな見せ場を演出した。

「ボールを受け取った瞬間にイチローが止まるのが目の端に見えて、三塁に戻るのかと思ったのに、ホームに向かってきた。トリックにだまされたよ。彼はまだ身体能力を保っていて、体調も良いのだろう。その前の三塁打にしても、中継さえミスらなければ三塁まで行ける打球だとは思わなかった。(イチローは)スピードを保っているね」

 メッツのトラビス・ディアルノー捕手にこのプレーについて聞くと、そんな答えが返って来た。26歳の新鋭キャッチャーは礼儀正しいことで知られる選手ではあるが、打撃、走塁の両方で切れ味を見せつけられた後では、その言葉は外交辞令ばかりではなかっただろう。

 また、スタメン起用された17日のゲームでは、通算打率3割2分6厘と相性の良いメッツの右腕バートロ・コローンから3打席目にイチローらしい安打を三遊間に弾き返した。このメッツとの数戦を見る限り、スイングスピード、守備でのスムーズな動き、状況を把握した走塁のうまさは依然として健在のようである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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