アロンソが「現役最強」たる理由 勝つ才能と、勝てるマシンに導く能力

田口浩次

幸運や偶然で複数回王者にはなれない

ワールドチャンピオンに輝くこと2回。アロンソは今なお「現役最強ドライバー」と評される。その理由は? 【写真:マクラーレン】

 昔、あるプロゴルファーが自伝でこう書いていたのを読んだことがある。「ツアーで1勝だけしたことがあるプロゴルファーと、2勝以上したことがあるプロゴルファーの差はとんでもなく大きい。プロゴルファーはツアー初優勝を達成すると、天狗になり、自信を持ち、自分の才能を信じることができ、その1勝だけで数年はモチベーションを保つことができる。しかし、その効力がなくなると、ツアー未勝利のプロゴルファー以上に勝つことが難しくなっていく。一方、ツアーで2勝以上経験のあるプロゴルファーは、自分の才能を信じることができ、なかなか勝つことができなくても、モチベーションを保つことができるのだ」と。

 この話は、きっとどんなスポーツにおいても共通するのだろう。どんなに才能があると言われてプロの世界に飛び込んでも、周囲も粒ぞろいの才能の持ち主ばかり。よほどの自信を持ち、実績を積み重ねて、自信を確信に変えなければ活躍することは難しい。しかし、そんなプロの世界においても、ゴルフならメジャー大会で勝利したり、テニスの四大大会に優勝するなど、プロの中でも飛び抜けた存在だけが、ごく少数のトップアスリートと呼ばれることになる。

 フジテレビF1中継解説者の森脇基恭さんと、とある取材でドライバー談義をしていたとき、「やっぱり複数回、王者になるドライバーは別格だよね」という話題になった。ある程度、競争力があるマシンに乗っていれば、たまたま優勝することはレースの展開次第であり得る。さらに、幸運にも圧倒的な競争力を持つマシンを手にし、ライバルが勝手に落ちていく展開によっては、まれだけれども王者になることもある。

 しかし、複数回の王座となると、幸運や偶然で手にすることはない。それは本当にズバ抜けた才能の持ち主が幸運も兼ね備えている場合のみだと。その意味において、マクラーレン・ホンダがフェルナンド・アロンソを獲得したことは正解だ。

 では、そのアロンソはどれほどまでに優れているのか? 「現役最強ドライバー」とも評されるアロンソの実力に迫りたい。

アロンソが持つ“センサー能力”

アロンソは数少ない、勝てるマシンを作れるドライバーの一人。その能力をルノー時代のエンジニアが証言する 【Getty Images】

 アロンソは2001年にミナルディからデビュー。03年からルノーF1チームのレギュラードライバーとなり、05年、06年と、当時最強だったフェラーリのミハエル・シューマッハを打ち破って2年連続王者に輝いた。その後、07年をマクラーレン、08年と09年は再びルノー、10年から14年をフェラーリで過ごし、5年間に3度ランキング2位という苦渋を味わい、15年からはホンダ復活に懸けて再びマクラーレンに所属している。

 そのアロンソがルノーで王者になった05年シーズン終了後のウインターテストで、ルノーのテストチームを取材したときのことだ。当時テストチームチーフエンジニアのクリスチャン・シルクに、ドライバーについて聞いたことがある。「勝てるドライバーと勝てるマシンを作るドライバー、そして良いテストドライバーはどう違うのか?」と。その問いに、彼はこう答えた。

「他のチームについては分からないが、ルノーのマシン作りにおいて良いテストドライバーは、ドライビングに癖がなく、毎ラップまったく同じ走りをしてくれるドライバーだ。われわれエンジニアは、さまざまなセットアップや空力パーツや電子制御(当時はトラクションコントロールをはじめ、数々の電子制御も許されていた)を試す。そのとき、データロガーにキッチリと違いが表れることが重要なんだ。一部のドライバーは無意識にその変化に対応してしまい、データの差がハッキリと出てこないため、エンジニアはその判断に苦労するからだよ。

 一方、勝てるドライバーは、とにかくマシンをチェッカーまで持ち帰り、レース中の判断力に優れ、競い勝てる才能の持ち主だ。たとえマシン開発能力がなくても、良いマシンを与えればトップで帰ってくるドライバーが勝てるドライバーだと言える。そして、勝てるマシンを作れるドライバー。これは本当に少ない。勝つ才能と、マシンの良しあしをエンジニア以上に感じ取れる“センサー能力”が必要になる。ウチで言えばアロンソであり、ライバルを見渡せばシューマッハだろう」

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