アロンソが「現役最強」たる理由 勝つ才能と、勝てるマシンに導く能力

田口浩次

勝てるマシンを作るドライバー

マシン開発の方向性を決める段階で、アロンソの“センサー能力”が大いに役立つ 【写真:マクラーレン】

 アロンソは当時どのようにルノーのマシン開発をしていたのかと言うと、まずルノーのエンジニアたちは、テストドライバーを使って、さまざまなテストを行い、良い結果を得た4〜6通りのマシン開発の方向性を定める。本来ならば、この4〜6通りすべてを徹底的に開発していけばいいのだが、チームには予算や人材の制限、そして何よりも時間の限りがある。そのため、この中から2〜3通りに方向性を絞らなければならない。そのときに役立つのが、アロンソのセンサー能力だ。シルクが言う。

「アロンソは一定まで開発が進んだマシンをテストし、その感触とデータから方向性を決めていく。ここで判断を間違えると、マシン開発は順調に進まず、ライバルたちに出遅れることになる。勝てるマシンを作るには、この時点でのドライバーによるフィードバックがとても重要だ」

 残念ながら、アロンソはフェラーリでは王者のチャンスを3回も逃している。だが、これについてはフェラーリとアロンソの相性が、そこまでマッチしなかったのではないかと筆者は考えている。フェラーリが圧倒的な強さを誇ったシューマッハ時代、シューマッハは誰よりも朝早くテストサーキットに現れ、本当に朝から晩までずっとチームスタッフと一緒に働いていた(時にはトレーニング用モーターホームと自身が寝泊まりする豪華なモーターホームを持ち込んでいた)。

 シューマッハ時代のフェラーリスタッフたちは、人々が持つイタリア人のイメージとはかけ離れた、パドックでもダントツの働き者集団だった。それはシューマッハが先頭を走り、チームを変え、スタッフの意識も変えた結果だったのだろう。

 一方、アロンソは流ちょうなイタリア語を話し、良いマシンにするための選択能力はシューマッハにも負けていないと思うが、チームをずっと引っ張り続けるタイプではない。ハードワークと呼ばれる裏方仕事をコツコツとやる典型的な英国人集団のルノー(マシン作りの拠点は英国エンストン)だったからこそ、アロンソの力は発揮されたのではないか。ちなみに、07年のマクラーレンで苦しんだのは、総帥ロン・デニスの寵愛(ちょうあい)を受けていたルイス・ハミルトンとのコンビで政治的にギクシャクしてしまったからだ。

マクラーレンを導けるか、真価問われる

マクラーレン・ホンダはアロンソのフィードバックを必要としている。優れた嗅覚で勝てるマシンに導けるか 【写真:マクラーレン】

 そしてアロンソは今、マクラーレン・ホンダを導こうと努めている。

 マクラーレンは開幕戦でパワーユニット(PU)のエンジンおよびERS(エネルギー 回生システム)のパワーを絞って、ジェンソン・バトンが完走。続くマレーシアGPでは、熱問題があることを理解しつつも、よりパワーを出すセッティングで、どこまで耐えられるかを実戦で検証。そして気温が低かった中国GPでは、まだまだPU全体のパワーは足りないながらも2台ともに完走した。

 現状はグリッド下位集団という位置にあり、アロンソとバトンという宝石のようなチャンピオンコンビは輝きを見せていない。しかし、こうして着実にデータを収集し、ホンダはバーレーンGPでパワーアップしたセッティングで挑む。さらに、ヨーロッパラウンドに突入するスペインGPでは、待望のアップデート版PUが投入される予定だ。マシン側も中国GPで新しい空力パーツを投入するなど、車体のアップデートは進む。

 10年前と違い、現在のF1はテストが大幅に制限されている。それでもレースは待ってくれない。シーズンが進行する中で改善を積み重ねていくしかない。そんな状態だからこそ、マシン開発にはよりドライバーのフィードバック、可能な限り良い方向性を見つける嗅覚が必要とされる。

 フェルナンド・アロンソの真価が問われるのはこれからだ。

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