サイクル終焉が迫るバルサとスペイン代表 極上のスペクタクルを保障できない現実

唯一無二の輝かしい軌跡

スペクタクルなフットボールを堪能する機会が失われつつあるリーガ・エスパニョーラ 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 すでに当時と同じものではなく、もうわずかなかけらしか残っていないかもしれない。それでも残り8試合となったリーガ・エスパニョーラを見るたび、私は少しずつ、まるで手から水がこぼれ落ちるように、永遠に忘れることはないあのスペクタクルなフットボールを堪能する機会が失われつつあることを実感せずにはいられない。

 私が言及しているのはフランク・ライカールトの下で芽生え、ジョゼップ・グアルディオラが監督に就任した2008年に開花したチームのことだけではない。2度のユーロ(欧州選手権)とワールドカップ(W杯)を立て続けに制したスペイン代表のプレーにも大きな影響を与え、勝利至上主義の是非を問うという不毛の議論の陰に長らくたたずんでいた、スペクタクルと勝利の両立を目指すという考え方に根拠を与えたフットボール哲学そのものについてである。

 獲得可能なあらゆるタイトルを獲り尽くした当時のバルセロナは、勝利を生み出すマシンのようなチームだった。攻撃的姿勢をとことん貫くその実直さを逆手に取り、カウンター狙いに徹するライバルチームのなりふり構わぬ超守備的な戦略に苦しめられることがなければ、恐らくさらに多くの成功を手にしていたことだろう。だが、それでもこのチームが唯一無二の輝かしい軌跡をフットボール史に描いてきたことは疑いのない事実だ。

戦力として考えられていないシャビ

 しかし、その軌跡ももうすぐ途切れることになる。エースのリオネル・メッシは今も健在で、まだまだ活躍できる年齢にあるものの、チームの主軸を担ってきた選手たちの多くは年を重ねていく中で衰えを隠せなくなってきている。そしてスペインフットボール界にとっては残念なことに、現状は当時のフットボールを継続できるだけのタレントを持った後継者も現れていない。

 バルセロナについて言えば、先週末のセルタ戦(1−0)ではその傾向が特に顕著に見られた。セットプレーから手にした1ゴールを守り抜くというバルセロナらしからぬ内容とは別に、この試合でルイス・エンリケは今一度シャビ・エルナンデスをほとんど戦力と考えていないことを明らかにしたからだ。

 すでに今季終了後のカタール移籍が決まったと言われているシャビは、この試合でも後半の30分程度のプレー時間だけで、現時点ではまだ自身がラフィーニャやイバン・ラキティッチ以上の存在であることを証明していた。だが昨季まで両足が耐え得る限りピッチに立ち続けてきたベテラン司令塔について、ルイス・エンリケは開幕前の段階から「彼とは話し合いの席を設けなければならない」と話していた。そしてその言葉通り、今季の彼は多くの試合をベンチから眺める役割を余儀なくされている。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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