サイクル終焉が迫るバルサとスペイン代表 極上のスペクタクルを保障できない現実

存在感を失いつつあるイニエスタ

30節を終えた時点で、イニエスタはまだゴールもアシストも記録していない 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 スペインフットボール史上最も重要な選手と言われてきたシャビの先発落ちだけでなく、今季のバルセロナの中盤に関してはもう1つ見逃せないデータがある。近年シャビ、メッシとバロンドールを競ってきたアンドレス・イニエスタが、30節を終えた時点でまだゴールもアシストも記録していないのだ。これは近年彼が存在感を失いつつあることを端的に示す数字である。

 またダニエウ・アウベスが契約を延長すべきかどうかが議論されているのも、クラブが16年1月まで新規の選手登録を禁じられており、既存のメンバーから代役を見いだすしかない状況に置かれているからに過ぎない。

 一時代を築いたベテランたちの置かれた状況の変化は、バルセロナのプレーに少なからず影響を及ぼしている。今のバルセロナにとって華麗なパスワークやボールポゼッションは不可侵のアイデンティティーではなく、時折脳裏をよぎる記憶の断片のようなものとなってしまっている。

 今季のバルセロナの強みが前線の“トリデンテ”(メッシ、スアレス、ネイマールの3トップ)の破壊力、そしてジェラール・ピケとハビエル・マスチェラーノを中心とした最終ラインの守備力にあることは疑いのない事実だ。その傍らで中盤の影響力は薄まる一方だというのに、シャビの後継者となり得たチアゴ・アルカンタラはグアルディオラ率いるバイエルン・ミュンヘンに引き抜かれてしまった。

あの時代に戻ることは難しい

輝きを失ったスペイン代表のプレーは国内でも批判の対象となっている 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 スペイン代表にも同様の変化が生じている。ビセンテ・デルボスケ監督が長らくバルセロナのプレーシステムを模倣し、初優勝を成し遂げた10年のW杯ではバルセロナの選手を7人も招集するなど、一時代を築いたチームのベースがバルセロナにあったのだから当然のことだ。

 輝きを失い、美しいスタイルを保障することもできなくなってしまった現在、スペインのプレーは国内でも批判の対象となっている。だが黄金期を築いた世代の多くが引退に近づいている状況で、あのプレーを継続するのは簡単なことではない。

 デルボスケはダビド・シルバやセスク・ファブレガス、セルヒオ・ブスケツ、コケら優秀なMFたち、そしてセルヒオ・ラモスやジェラール・ピケらDFたちを用いてスタイルの継続を試みてはいるものの、当時のプレーレベルを保つのは難しいだろう。なぜならそれは思考やハードワークではなく、然るべきタレントの存在によってのみ成し得るものだからだ。そしてタレントは作り上げるものではなく、自然と生まれてくるものである。

 だからと言って今のスペインがチームとしての機能性やプレースタイルを失ってしまったわけではない。同様にバルセロナもタイトルを争う力がなくなったわけではなく、とりわけカンプノウでは時に良いスペクタクルを提供してくれることだってある。

 ただ現状を見る限り、試合前から極上のスペクタクルを堪能できることが保障されていたあの時代に戻ることは難しいと言わざるを得ない。今できるのは新世代のタレントが育ってきた際に当時のチームを手本にできるよう、成功の軌跡を検証、分析しておくことだけだ。試合前に腹の底から湧き出てきたあの高揚感を、再び感じられる日が来ることを信じて。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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