“フェラーリのベッテル”秘めた可能性 「ストップ・ザ・メルセデス」のその先に
大幅向上のPUとレース戦略で勝利
今季フェラーリに移籍したベッテルは2戦目で早くも優勝を飾った。かつて黄金時代を築いたシューマッハと同じ道を歩めるか 【Getty Images】
勝利の女神がほほ笑んだのは昨年、93年以来21年ぶりにシーズン未勝利に終わったフェラーリ。かつて、ミハエル・シューマッハが築いた黄金時代の幕開けがそうだったように、セバスチャン・ベッテルとチームは見事なレース戦略で復活の勝利を飾ってみせた。
勝因の大きなポイントは、なんといっても昨年から大幅に向上したパワーユニット(PU)にある。パンクで一時18位まで後退したキミ・ライコネンが4位入賞したことや、ベッテルがタイヤコンディションの違いがあるとはいえ、リアウイングのフラップ部分を可変させてドラッグと呼ばれる空気抵抗を減らすDRS(ドラッグ・ リダクション・システム)を使ってメルセデスの2台をオーバーテイクしたことでも明らかだ。さらに言えば、同じフェラーリPUを使用するザウバーの好調ぶりからも、フェラーリのPUが大きく進化したことが分かる。
メルセデスが犯した2つの判断ミス
1つ目のミスは、ザウバーのマーカス・エリクソンがコースアウトして、セーフティーカーが入ったタイミングでの判断。メルセデスは2台同時にタイヤ交換へとピットインさせたが、まだ4周目であり、ベッテルを筆頭に5台のマシンがハミルトンより前のポジションでコースに残ることを判断した。これが10周ほど周回したタイミングであれば、次のタイヤ交換戦略の点からも2台同時ピットインが正解だが、4周だと2回ピットインか3回ピットインかのタイヤ交換戦略によっては、そのままコースに残る選択も間違いではない。であれば、リスクヘッジを考えて、ロズベルグはコースに残す戦略もあったはずだ。
2つ目のミスは、メルセデスが2台とも同じハードタイヤへと交換したこと。最終的には、ハミルトンはミディアム→ハード→ミディアム→ハード、ロズベルグはミディアム→ハード→ハード→ミディアムと別パターンだったのだが、セーフティーカーのタイミングでは同じハードタイヤへと交換した。結果的に、ハードタイヤは思っていたほどタイムが稼げず、結果的に前を行くマシンをオーバーテイクすることに手間取り、先頭のベッテルに大きなリードを許す結果となった。これらは、メルセデスが自分たちのマシンの実力に自信を持ち、2人のドライバーへ公平な競争チャンスを与えることを意識し過ぎたのではないかと推察できる。
ベッテルだけがメルセデス勢と互角のペース
ベッテルは唯一メルセデス勢と互角のペースを刻み、勝利をつかんだ。レース展開次第では、優勝を狙える力は十分ある 【Getty Images】
今回全車のレース中ラップタイムから、1分44秒台より速いラップをどれだけ刻んだかを調べたところ、最多はロズベルグでファステストラップの1分42秒062を筆頭に、42秒台5ラップ、43秒台6ラップ、44秒台13ラップの合計24ラップ。次がハミルトンで1分43秒125を筆頭に、43秒台12ラップ、44秒台12ラップの合計24ラップ。そしてベッテルが最速1分43秒648で、43秒台6ラップ、44秒台17ラップの合計23ラップだった。
それ以下のドライバーだとウィリアムズのフェリペ・マッサが合計11ラップ、同じくウィリアムズのバルデリ・ボッタスが11ラップ、ライコネンが10ラップ、レッドブルのダニール・クビアトが7ラップ、ザウバーのフェリペ・ナスルが6ラップ、トロ・ロッソのマックス・フェルスタッペンが3ラップ、フォース・インディアのニコ・ヒュルケンベルグが3ラップ、そしてロータスのロマン・グロージャンが2ラップを刻んだ。
つまり、ベッテルだけがメルセデス2台とほぼ互角のペースを刻むことができたということだ。ベッテル自身も「まだメルセデスの方がアドバンテージはあるけれど、その直後の位置にいることが大事だ」と語っていて、今後もレース展開によっては十分勝利を目指せるチーム力を手にしたことを示唆している。