“フェラーリのベッテル”秘めた可能性 「ストップ・ザ・メルセデス」のその先に

田口浩次

96年シューマッハ再現への期待

2年ぶりVにフェラーリスタッフも歓喜。この勝利が自信となり、開発のモチベーションアップにつながるはずだ 【Getty Images】

 そして、このベッテルの勝利は、F1界全体にとっても朗報と言える話題かもしれない。というのも、ベッテルのフェラーリ移籍は、シューマッハのベネトンからフェラーリへ移籍した96年と重ねて見られているからだ。

 94年、95年と2年連続ワールドチャンピオンを獲得したシューマッハが電撃的に移籍した当時のフェラーリは、まさにどん底に近い状態だった。90年にはアラン・プロストとナイジェル・マンセルのコンビでシーズン6勝を挙げていたが、その後は未勝利が続き、94年と95年にわずか1勝ずつ。シューマッハでも苦労するだろうと誰もが考えていた。しかし、いきなりシーズン3勝。しかも、シーズン中盤7戦目のスペインGPで勝利し、終盤が近づいたベルギーGP、イタリアGPと連続優勝。世界中のフェラーリファン、ティフォシ(熱狂的なファン)たちの心をつかんだだけでなく、フェラーリスタッフたちに自信をもたらし、やる気を引き出す結果となった。その後、フェラーリは黄金時代を迎えることになる。

 今回のベッテルの勝利は、シューマッハの7戦目より早い2戦目での優勝。しかも、ライコネンも速さを見せているので、今後のレース展開によってはライコネンも十分勝利が狙える位置にいることが確認できた。このシーズン序盤での勝利は、チームの自信になり、開発競争でのモチベーション向上につながることは間違いない。フェラーリスタッフだけでなく、ファンもシューマッハがいた黄金時代の再来を期待するはずだ。

人気凋落の歯止めとなれるか

 今シーズンはドイツGP開催が中止になり、世界視聴者数の減少が叫ばれるなど、ネガティブな話題が多かった。実は96年当時も、アイルトン・セナの死、マンセルやプロストといった人気ドライバーたちの引退と、その先のF1人気に不安が生じていた時期だった。

 それをシューマッハとフェラーリが打ち破り、ドイツに空前のF1ブームを生み、その後、フェルナンド・アロンソの登場で、バイク人気が圧倒的だったスペインでもF1人気に火をつけた。当時のアロンソは、ルノーのマイルドセブン・ブルーと出身地アストゥリアス州旗のブルーが同じで、フェラーリレッドのシューマッハとのライバル関係という視覚的にも分かりやすい構図が話題を呼び、スペインでのF1人気の原動となっていた。

 つまり、話を現在のF1に戻せば、世界で最もファンの多いフェラーリが、圧倒的な強さを誇るメルセデスとガチンコ勝負をすることで、F1人気の凋落(ちょうらく)に歯止めをかける可能性があるということだ。さらに、人気が大きく落ち込んだドイツにおいても、“フェラーリのベッテル”が強くなれば、来年以降、ドイツでのF1開催復活を望む声も大きくなるだろう。

 果たして、ベッテルは憧れのシューマッハと同じ、世界中のティフォシたちを心酔させることができるのか。また、憎らしいほどの強さでアンチ・ベッテルを生み出すのか。ベッテルとフェラーリの挑戦という新たな注目点が生まれたことが、マレーシアGP最大の収穫かもしれない。

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