U−22日本代表が挑む「不安説」の払拭 五輪1次予選で示すべき世代の力と可能性

川端暁彦

初めてベストメンバーを招集

欧州でプレーする南野(写真)らを招集するなど、チーム結成以来初となるベストメンバーで予選を戦う 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 もう一つの敵は「暑さ」だ。

 3月に入っても寒い日が続いた日本から、連日30℃を軽く超えて湿度も高いマレーシアで過ごす身体的な負荷は小さなものではない。私も空港から出ると途端に汗が出て、夜中に外の店で夕食をとっているときも、別に辛いものを食べていたわけでもないのだが、汗みどろになってしまった。

 ベトナムやマレーシアの選手たちがこの気候に慣れていることは言うまでもなく、その点ではやはり彼らにアドバンテージがある。日本も暑さ対策を意識し、Jリーグの試合を休ませて選手たちを招集。決戦の11日前の16日に日本を出発し、17日からトレーニングに励んできた。暑さへの適応はある程度進んだはず。ただ、欧州組の南野拓実(ザルツブルク/オーストリア)は23日、久保裕也(ヤングボーイズ/スイス)は24日の合流であり、この2人に関しては日本以上に寒い土地から来たこともあって適応は難しい。彼ら自身の能力で乗り越えてもらうしかない。

 A代表候補の経験を持つ久保と南野も招集されたことで、手倉森監督はチーム結成から1年あまりを経て初めて「ベストメンバー」を招集することになった。昨年秋のアジア競技大会ではシーズン中だったために原則1クラブ1名という縛りがあり、また予選を控えていたU−19日本代表の選手たちも招集できなかった。「何の縛りもなく選ばせてもらった」と語る手倉森監督にとっては、五輪本大会まで続くチームビルディングの上でも貴重な機会となる。

「結果」が何よりも大事だが

 後方はある程度固まった。センターバックは植田直通(鹿島アントラーズ)と岩波拓也(ヴィッセル神戸)のU−17日本代表以来の黄金コンビが軸。右サイドバックにはクロスボールの質に定評のある松原健(アルビレックス新潟)が入り、左には攻撃自慢のレフティー山中亮輔(柏レイソル)。中盤中央は走れて守れて頭もいい遠藤航(湘南ベルマーレ)とセンス抜群の大島僚太(川崎フロンターレ)のコンビが安定している。ボール支配を狙うなら原川力(京都サンガF.C.)、ミドルシュートで一発狙いなら野津田岳人(サンフレッチェ広島)、流動性を出したいなら矢島慎也(ファジアーノ岡山)など、カードの切り方も見えている。

 一方で、久保と南野が加わった攻撃陣は流動的で発展途上だ。ここまで軸になってきたのは、体格とスピードを兼ね備えるFW鈴木武蔵(新潟)と突破仕事の達人・中島翔哉(FC東京)の2人。ここに久保と南野をどう組み込むか。久保は3試合中2試合、南野は第1戦と第2戦にしか出場させないという所属クラブからの規制が入っていることもあり、予選という真剣勝負の場を通じ、さまざまな組み合わせを「試す」場にもなりそうだ。

 予選なので当然ながら「結果」が何よりも大事になる。しかし矛盾するようだが、この予選の後に続く来年1月のAFC U−23選手権本大会、そしてリオ五輪そのものを見据えると、単に結果を出すだけではない、チームとしてのレベルアップを実現する好機でもある。今のままのチームで突破できるほどアジアは甘くないし、五輪でメダルを狙うなら甘くないどころの話ではない。より大きな成長が必要だ。

 今回、予選の舞台となったのは幾多の名勝負が刻み込まれてきたマレーシアのシャーアラムスタジアム。19年前にはアトランタ五輪のアジア最終予選の舞台ともなった。28年ぶりに五輪切符を勝ち取り、日本サッカーの歴史を塗り替えることとなったその土地で、未来を担う世代の戦いが始まろうとしている。

2/2ページ

著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント