鈴木明子「真央が選んだ道を見守りたい」 特別な絆で結ばれた仲間たちへの思い
私も先生も折れないから大変だった
恩師の長久保コーチ(右端)とは今でも良き師弟関係を築いている 【写真は共同】
そうですね。今朝も会いました。普段レッスンするときも必ずいるので。
――現役時代はけんかもよくしていたそうですが、さすがに今はないですか?
もうしていないですね(笑)。現役時代はけんかというか言い合いは多かったと思いますけど。
――そういうときはどちらが先に折れるのですか?
どっちもあまり折れないから大変でした(笑)。まあ生徒ですし、私が最終的には「すみません」みたいな。でも謝るだけじゃなくて、自分はこのときこういうふうに思っていたんだということを言わないと、先生も勘違いしたままになっちゃうので。人間の言い争いってほぼほぼ勘違いが原因じゃないですか。だから「私は先生のこういうところが嫌だったから、私も次からは直すけど、先生もこういうときにここを直してほしい」って直してほしいところを言います。そうじゃないと同じことの繰り返しになってしまいますしね。私はこういったところが嫌だったんですとか、先生のその言い方が嫌だったんですとか。だからこういったときにもうちょっと一呼吸置いて、分かってほしいかななどと言っていました。
――何でも言い合える良い師弟関係ですね。
私も良い関係だなと思っています(笑)。
焦らずに自分のペースで歩いていけたら
今後も「焦らずに自分のペース」で歩いていく 【スポーツナビ】
楽しいと思っていたんです。ただ実際は、楽しいというより厳しい世界だなと思います。
――どういった点ですか?
お金を払って見に来てもらっているので、失敗すると「プロとしてダメだな」と思うことがあって……。プロは表現の中にジャンプが溶け込んでいるイメージなんです。「ジャンプを跳びます」じゃなくて、演技1つの中にジャンプがあるというだけで。競技だとジャンプがあって、スピンがあり、それで表現をするという感じじゃないですか。でもプロは表現があって、その中にジャンプがあるという感じなので、そこがすごく難しい部分かなと思いながらやっています。
「プロフィギュアスケーターはこれ」というふうにならなければいけないわけではないと私は思っていて、これからやっていくうちにどういう方向性になるか決まってくると思うんです。でも焦らずに「こうじゃないといけないんだ」ではなく、可能性をどんどん広げていって、根本にあるのは本当にフィギュアスケートを好きな人が増えてほしいという思いと、後輩たちがどんどん活躍する場で注目してもらえたらいいなというその気持ちでお仕事できればと思っています。最初は焦る気持ちがありました。「こんなのじゃプロとしてだめだ」というのもあり、すごく自己嫌悪に陥ったり、本番が怖くなったりということがあったんです。でもそうじゃなくて自分自身のペースをつかめるようにしようと思い、今はゆったり構えるようにして、「人生はまだ長い」と思ってやるようにしています。
――今後、挑戦したいことはありますか?
今は自分が手いっぱいなのであまり考えていません。ただ子どもたちに音を動きで表現する部分のお教室ではないですが、セミナーみたいなものを開けたらいいなと。練習というよりは、みんなでこういう表現をしようというものを、ステップを入れたりしながら、同じステップを「楽しそうに」とか「悲しそうに」などと個々にやってみたり。この音をどう表現するかとか、ここで動物を表現しようといったことをクラスでやっても楽しいのではという、ザックリしたイメージがあります。
――競技生活の経験を今後の人生にどうつなげていきたいと思っていますか?
フィギュアスケートを通して1つのことを諦めないでコツコツと続けていったのが、今の鈴木明子というスケーターだと思うので、これからものんびりだと思うし、焦らずに自分のペースで好奇心を持って、歩いていけたらいいなと思っています。人生は生き急ぐことはないと思っていて、でも挑戦しないとチャンスも何もつかめないと思っているし、だから自分の足で勇気を持って一歩踏み出そうというのはすごく意識しています。
(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)