チームバランスの中で変わった本田の仕事 追求するプレースタイルから逆行する役割

片野道郎

求められているのは組み立ての貢献

チェルチ(右)という単独突破型アタッカーが加わったことで、本田には組み立てなどMF的な役割が求められている 【Getty Images】

 それでも、前半14分という早い時間にユベントスが先制したのは、ミランが相手のスローインへの対応でラインコントロールをミス。高く押し上げた最終ラインの裏をカルロス・テベスに取られ独走を許すという失態を犯してしまったため。第21節までを終了した時点で13ゴールを挙げていたリーグ得点王は、GKディエゴ・ロペスとの1対1を冷静に決めてユベントスにリードをもたらした。

 こういう守備での不用意なミスは相変わらずだが、チームとしての戦いぶりに関して言えば、この日のミランは決して悪い内容ではなかった。立ち上がりから積極的に最終ラインを押し上げて重心を高く保ち、組み立てでもたつくユベントスから中盤でボールを奪い反攻、敵陣深くまで攻め込む場面を、先制される前もその後も、再三作り出していたからだ。最終的には1−3で完敗を喫することになるわけだが、後半20分に決定的な3点目を喫するまでは、後半に入ってもむしろ攻勢に出ている時間帯が長いくらいだった。

 本田はその中で、ワンタッチでボールをさばきながらビルドアップに絡むという、FWというよりはMF的なプレーに終始、中盤でパスをつないで攻撃のリズムを作る仕事をきっちり果たしていた。ただし、前線に進出してフィニッシュに絡む場面はほとんど見られなかった。

 これは、守備の局面でピルロをマークするという重要なタスクを担っていたため、行動範囲に制約があったことも一因だろう。しかしもうひとつ、メネスだけでなくチェルチというもう1人の単独突破型アタッカーが加わったことで、チーム全体のバランスの中で担うべき役割が変わってきたという側面もあるように思われる。

 ボールを持ったらどんどんドリブルで仕掛けて行くアタッカーが2人もいるとなると、前線に積極的に進出してフィニッシュに絡むよりも、もう少し低い位置から攻撃を組み立てつつ、ボールを失った後の守備に備えるというポジショニングやプレー選択をせざるを得ない場面はどうしても増えてくる。

 これは、組み立てよりもフィニッシュを重視し、ゴールという実績を挙げることに優先順位を置いてプレースタイルを再構築するという、本田が今季ここまで目指してきた方向性からすると、むしろそれに逆行する流れではある。

インザーギが評価するバランス感覚や献身性

インザーギ監督(右)は本田のバランス感覚や献身性を高く評価している。本田はプレースタイルをあらためて追求すべきなのだろうか 【Getty Images】

 しかし、フィニッシュに特化したセンターFWであり、ビルドアップにはほとんど絡まないデストロ、ボールを持つとパスよりもドリブルで仕掛けることを考えるメネス、チェルチというアタッカー陣とピッチ上で共存し、しかもチームを攻守両局面で機能させていこうとするならば、パルマ戦のようにウイングでプレーするにしても、このユベントス戦のように2トップの一角(というか実質トップ下)でプレーするにしても、「4人目のアタッカー」に求められるのは、一歩下がった位置から攻撃をオーガナイズしつつ、攻守のバランスを保証するというMF的な仕事だろう。

 インザーギ監督が本田を高く評価し、決してスタメンから外そうとしないのも、攻撃のクオリティーに加えて、チーム全体のメカニズムの中で担うべき仕事をきっちりこなし、組織を機能させるバランス感覚や献身性を持っているからだ。インザーギが今後もアタッカー4人の同時起用を前提とする4−4−2を採用し続けるならば、本田はフィニッシュよりもむしろ、オーガナイザー、バランサーとしての持ち味を発揮するプレースタイルを、あらためて追求すべき立場に置かれているのかもしれない。

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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