したたかなチェルシー優勝は既定事項? 引き分けに終わったプレミア上位直接対決

寺沢薫

ランパード「温かい拍手に感謝をしたい」

上位直接対決となったチェルシー対マンチェスター・シティは1−1の引き分けに終わった 【Getty Images】

 後半32分にフランク・ランパードがピッチに入ると、スタンフォード・ブリッジ(チェルシーのホームスタジアム)のファンは温かい拍手と、帰還を歓迎する多くの横断幕で彼を迎え入れた。

 わずかだがブーイングも聞かれたし、中には「フランクは恥知らず」「お前はもうレジェンドじゃない」という心ない文字も見られた。行き過ぎた愛情が憎しみに変わってしまったファンがいたのも事実だが、それでも、チェルシー歴代4位の648試合に出場し、歴代最多の211ゴールをクラブに捧げてきた英雄に、大多数のチェルシー・サポーターが敬意を示した。

 試合終了後、チームメートが控え室に戻る中、最後までピッチに残って拍手を浴びたランパードは、こんなコメントを残した。

「個人的に、不思議な日だったね。ここに戻るにあたって、興奮していたけれど同時に緊張もしていたんだ。でも、実際はすごく楽しめた。両チームのファンからの温かい拍手には感謝をしたい」

チェルシーは引き分け狙いだった?

 ただ、9月21日のプレミアリーグ第5節、エティハド・スタジアム(マンチェスター・シティのホームスタジアム)で後半40分に貴重な同点ゴールを決めたように、今回はチームを救うことはできなかった。ランパードはチェルシーでの13年間で一度も使ったことがなかったスタンフォード・ブリッジのアウェー控え室の様子を、「みんな失望した様子だった」と話す。

「でも、まだ道のりは長い。僕らは多くのチャンスを作ったし、試合を支配していたし、動きもよかった」と前向きな言葉が続いたが、一方で彼はこうも語っている。

「チェルシーは最終的に引き分け狙いのプレーをしたと思う。彼らはそういう守備ができるチームだからね。僕は長く在籍していたから分かるんだ」

 誰よりもチェルシーを知る男が発したこの言葉こそ、1月最後の土曜に行われた大一番を端的に説明している。プレミアリーグ首位のチェルシーと、2位マンチェスター・シティの熱戦は1−1のドローに終わった。前半41分に先制されたシティは、4分後にダビド・シルバのゴールで追いついたが、逆転ゴールを挙げるには至らず。これで23試合を消化して、両者の勝ち点差は5ポイントに保たれた。

両チーム主力を欠く苦しい台所事情

この試合をそろって欠場したセスク(左)とジエゴ・コスタ。特にセスク不在の影響が浮き彫りとなった 【Getty Images】

 シティはヤヤ・トゥレとスウォンジーから獲得したウィルフリード・ボニーをアフリカ・ネーションズカップで欠いた。特に、トゥレが不在のプレミアは今季5試合目だったが、一度も勝てていない(4分け1敗)。この試合についても、『スカイスポーツ』は「彼のフィニッシュ能力があれば、タイトな試合の中で違いが見られたはず」と記事をつづっている。勝負どころで見せる怒とうの攻撃参加でチームを救ってきた大黒柱の存在は、攻めながらも勝ちきれなかった今回のようなゲームでこそ必要だった。

 ただし、台所事情で言えばより苦しいのはチェルシーの方だった。

 今回の首位決戦を、チェルシーはリーグ最多得点のFWと、リーグ最多アシストのMFを欠いた状態で戦った。ここまで17ゴールのジエゴ・コスタは直前のリーグカップでリバプールのエムレ・ジャンを踏みつけ、FA(フットボール協会)から3試合の出場停止処分を受けたばかり。15アシストのセスク・ファブレガスは同じリバプール戦でハムストリングを痛め、2人のスペイン人はスタンドに仲良く並んで試合を観戦していた。

 そんな“飛車角落ち”のチェルシーを、解説者のフィル・ネビル(元マンチェスター・ユナイテッド)は「まるで昨季のチェルシーを見ているようだった」と評している。つまり、守備は固いが、攻撃のアイデアは凡庸だったという意味だ。

 実際、D・コスタの代役は先制ゴールを挙げたロイク・レミがなんとか埋めたものの、「セスクの代役は存在しない(『デイリー・ミラー』)」ことはあらためて浮き彫りになった。チェルシーは90分間でわずか3本のシュートしか撃てなかった。これはここ10年間のプレミアで、彼らにとって最少の数字である。

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著者プロフィール

1984年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、株式会社フットメディア(http://www.footmedia.jp/)在籍時にはプレミアリーグなど海外サッカー中継を中心としたテレビ番組制作に携わりながら、ライター、編集者、翻訳者として活動。ライターとしては『Number』『フットボリスタ』『ワールドサッカーキング』などに寄稿する

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