選手の自主性に任せたアギーレ流の功罪 アジアカップで見えたチーム作り
堅実で効率的なビルドアップ
ベスト8に終わったアジアカップ。その中でアギーレ流のチームマネジメントが見えてきた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
連覇を掲げて挑んだ大会で敗退したことは重く受け止める必要があるものの、この結果を持って日本のクオリティーが下がったと評価する必要がないのは確かだ。
準々決勝までの4試合、相手は全て中東勢だったが、それぞれが違う守り方で日本代表の攻撃を封じにきた。その中でも日本は中途半端な位置でボールを失わないことを意識しながら、センターバック(CB)とサイドバック(SB)のつなぎにアンカーの長谷部誠、インサイドハーフの遠藤保仁が絡み、薄くなったエリアを突いて、アタッキングサードまで継続的にボールを運ぶことができていた。
アルベルト・ザッケローニ前監督はサイド攻撃を主体として、かなり細かなポジショニングまでこだわったが、アギーレ監督は個々の動き方にかなりの自由を与え、試合の状況に応じて選手が判断することを容認している。その代わり、ボールをワイドに速く回すこと、縦が空いたら間髪入れずにボールを入れていくこと、無駄にボールを回して奪われるリスクを冒さない意識を徹底して指示し、堅実で効率的なビルドアップを実現した。
流れの中で崩しの起点を作ることができている
選手たちは流れの中で生じるスペースを見ながら、崩しの起点を作ることができていた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
この間、10本ものパスをつないでいるのだが、大事なのは1つのエリアに固執せず、流れの中で生じるスペースを見ながら崩しの起点を作ることができていることだ。アギーレ監督のスタイルが植え付けられていない初期の親善試合では、とにかく縦に速くつなぐ意識やロングボールが目立ったが、ワイドなビルドアップに局面のコンビネーションを織り交ぜるスタイルが構築されるに従って、ポゼッションも安定してきた。
選手の判断に委ねられ、応用が利く
監督からアイデアは提示されても、試合中は選手の判断に委ねられている 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
例えば、3試合目のヨルダン戦は相手が中央を厚くした4−3−1−2でトップ下の選手が長谷部をマンマークしてきた。そのため、無理に中央は使わず、遠藤もワイドに流れる形で、サイドチェンジのパスを効果的に使いながら、サイドをえぐる攻撃を多くしていた。
スタイルと書いたが、それは速く、広くピッチを使ってビルドアップするコンセプトであり、相手の守り方によってどこをどう攻めるかは監督からアイデアは提示されても、試合中は選手の判断に委ねられる。そうした応用力を大事にすることで、相手がどんな形できても効果的な攻撃を繰り出せるようにチーム作りを進めてきているのだ。
そうした攻撃が機能するほど目立たなくなったが、良い形でボールを奪った時には素早く縦を突く、ショートカウンターの意識も見られた。象徴的だったのがヨルダン戦(2−0)の先制点。吉田のサイドチェンジを乾が受けようとしたところで、一度は相手にカットされるが、直後にロストしたボールを奪い返すと、遠藤、長谷部、乾と素早くつなぎ、最後は岡崎が放ったシュートのリバウンドを逆サイドの本田が押し込んでいる。
徹底されていたバランス良くカバーする意識
守備面で効果的な働きをしていた長谷部。相手のストロングポイントを効果的に消す役割を果たした 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
攻め込みながら、なかなか得点を奪えない状況が続いても、落ち着いて試合を運ぶことができた理由は守備が安定していたことだろう。UAE戦では立ち上がりにアーリークロスを裏に蹴り込まれ、相手の狙いがはまる形で失点してしまった。あの時間帯でのプレスのかけ方、吉田と森重の裏の取られ方、川島の対応は拙かったが、4試合で1失点という結果が示す通り、アジアカップを戦い抜く意味では十分に機能していた。
守備は高い位置からボールを奪いに行くのが基本型だが、闇雲に人数をかけるのではなく、誰かがボールに行ったら周りの選手がバランス良くカバーする意識が徹底されていた。特に効果的な働きをしていたのが長谷部と右SBの酒井高徳で、長谷部は中央をケアしながら必要に応じてワイドにスライドし、相手のストロングポイントを効果的に消す役割を果たした。酒井は逆サイドの長友が高く上がる分、同サイドをケアしながら、必要に応じて中央の裏もカバーしていた。