中井貴一を支えるスポーツの力 オヤジ甲子園と39度猛暑ノック

しべ超二

全員が号泣「甲子園のスゴさを痛感した」

【(C)2015「アゲイン」製作委員会】

 10代のうちに築いたそうした気質は、39度の猛暑であわや熱中症という中行われた、撮影前の特訓でも発揮された。

「シートノックを受けて、最初は面白いしいいんですけど、『中井さん、暑いけど大丈夫ですか?』って言われた時に『あーもう暑いんでゴメンなさい』って言えない、ギブアップが嫌なタイプなんです。辛いんですよ(苦笑)。でも『いえ、全然大丈夫です』って言っちゃうタイプで、やっていくうちに“俺は一体何に向かっているんだろう?”って自問自答していくみたいになっちゃって(苦笑)。でも、こういう撮影が無ければ炎天下の中でノックを受けようとは思わない訳で、そういう思いを強制的にでもさせてくれる何かがあるっていうのはやっぱり役者っていう商売だからだなという風に思って、得をしたなっていう感じもしました」

【写真:中原義史】

 たしかに、50歳を過ぎて泥まみれになるほど初めての野球に取り組むことなど俳優でもなければありえない。さらに作品のハイライトとなる甲子園をロケ地にしての撮影では、やはり本作に出演しなければ分からなかったであろう感慨、体験が待っていた。

「出演者のうち、柳葉(敏郎)さんは軟式テニスで僕は硬式テニス、でも他の連中は全員高校球児なんです。それで甲子園に入って“やっぱり野球場は空が見えるのがいいな。ドームなんかは天井だもんな”なんて思って、『やっぱり野球場はあれだね』ってパッと周りを見たら、全員号泣してるんです(笑)。まだ撮影でも何でもない、ただみんなで球場に入った時ですよ。え、泣いてるの!? ってビックリしたら『嬉しいっす……甲子園っす』って言って。だから自分が中に入った時より、全員が泣いてるのを見た時、甲子園の威力というかスゴさを痛感しました」

遅くない、今からできることは何なのか

【(C)2015「アゲイン」製作委員会】

 その後も出演者たちはウグイス嬢のコールを受けては泣き、プラカードに先導されて行進しては再び涙と、大の大人が感極まり泣き通しだったという。

「でも、それが甲子園だし、『マスターズ甲子園』(※本作の舞台となる、元高校球児たちが世代を超え再び甲子園を目指して戦う大会)ってみんな終わった後の飲み会を楽しみにしているんですよね。最高に贅沢な同窓会というか。バッターボックスに立った時とか、自分がパーって高校時代に戻るんでしょうね。人間ってほら、核の部分って大人になってもそんなに変わらないじゃないですか。周りから“あの人は大人だ”って思われるだけで、自分では大して変わってない。たぶんそれは80になってもそんなに変わらないと思います。だからその時の思いが走馬灯のように出る、それが甲子園なんだろうと思います」
 若き日の思い出をタイムマシンのように甦らせ、その場に立てば意識を瞬く間に当時へ引き戻す。そしてそんな経験は過去を懐かしむだけでなく、明日からまた生きていく活力も与えてくれる。

「この映画は28年前に行けなかった甲子園を、いま『アゲイン』するっていう意味ですけど、僕はエンドタイトルの後からが彼らにとってのアゲインだと思っています。28年前に終えられなかったことを終えて、そこからは自分の残された人生を前向きに歩んでいく。青春っていうものをとらえる時、当然どうしても昔の思い出になっていくんだけど、僕は今からでも遅くないような気がするんです。昔できなかったことより、自分たちが今からできることは何なのか――それを考えていくことが、僕は『アゲイン』なんじゃないかという気がしています」

 映画『アゲイン 28年目の甲子園』は2015年1月17日(土)より全国公開。


映画「アゲイン 28年目の甲子園」予告編1 (83秒) - YouTube

STORY

かつて熱血高校球児だった坂町だが、今や仕事にも張りはなく、野球とも無縁の生活を送っていた。そんな坂町のもとに、ある日突然、元チームメイトの娘・美枝(波瑠)が訪ねてくる。<マスターズ甲子園>のスタッフとして働く美枝から大会への参加を持ちかけられるが、「今さら」と断る坂町。28年前の高校3年生の夏に起こった事件により甲子園への夢を断たれた坂町は、自らの思いにフタをしたつもりでいた。だが、父親の思い出を追い求める美枝と接するうちに、坂町は離婚した妻が亡くなって以来、絶縁状態の娘・沙奈美とちゃんと向き合うことをせず、ずっと逃げてきたことに気づく。「あの夏」に決着をつけなければ前へは進めない。坂町はマスターズ甲子園への参加を決意し、事件のことを知りながらずっと姿を消していた元マネージャー・立原裕子に、一通の手紙を送る。現れた裕子の口から語られたのは、彼が全く知らない真実だった……。

「アゲイン 28年目の甲子園」

■原作:重松清「アゲイン」(集英社「小説すばる」連載)より
■監督・脚本:大森寿美男
■主題歌:浜田省吾「夢のつづき」(SMEレコーズ)
■出演:中井貴一、波瑠、和久井映見、柳葉敏郎、門脇麦、太賀、工藤阿須加、西岡徳馬 ほか
■製作/「アゲイン」製作委員会
■配給:東映
■(C)重松清/集英社 (C)2015「アゲイン」製作委員会
■www.again-movie.jp

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著者プロフィール

映画ライター。ペンネームは『シベリア超特急2』に由来し、生前マイク水野監督に「どんどんやってください」と認可されたため一応公認。日本のキング・オブ・カルト、石井輝男監督にも少しだけ師事。プロフィール画は芸人ネゴシックスの手によるもの。

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