発展途上の日本代表が抱える大きなテーマ オークランドシティ戦で見えた現在地

元川悦子

コンディション調整が大きなテーマ

疲労が見られた遠藤は60分間で交代。アジアカップまでにコンディションをどこまで上げられるかは、日本代表の大きなテーマだ 【Getty Images】

 アギーレ監督は流れを変えるため、後半から選手を大幅に入れ替えるかと見られたが、意外にも変更はなし。本番前1週間というタイミングを想定し、ベストメンバーで行けるところまで行こうと考えたのだろう。けれども、選手たちの運動量は前半以上に落ち、攻撃も迫力を欠いたまま。「今日は動きが止まるのは想定内。バテてもいいので出し惜しみせずやることが大事だった」と遠藤はフィジカル的に未完成であることを認めていた。

 塩谷の足がつったのを見ても分かる通り、オフ明けの国内組のコンディションは改善の余地がある。寒い欧州から戻ってきた海外組も暑熱順化をより徹底し、後半も走り切れる状態に持っていく必要がある。コンディションを本番までにどこまで上げられるかは、2連覇への非常に大きなテーマだ。

 結局、疲労の見えた遠藤らは60分間で交代。ここで下がった香川も後半6分のヘディングシュートを外すなど、1試合を通して4〜5本の決定機を逃し、苦境脱出の手応えをつかみきれなかった。インサイドハーフというトップ下以上に長い距離を走らなければならないポジションで献身的なアップダウンを見せ、守備面での貢献度は高かったが、「距離感だったり、システムの順応という意味でまだ時間が必要」と本人は納得していない。どこでゴールに向かうスイッチを入れるべきかを今、懸命に模索中なのだろう。

 香川をどう生かすかは日本代表にとって前々からの大きなテーマ。本田は「チームがカウンターの時に走る距離が長くなるのはしょうがない。真司も我慢が必要になるし、守備能力もフィジカルも求められてくる。だけど押し込めた時はヤット(遠藤)さんと真司のポジションが逆にフリーになる。試合展開によるんじゃないかと思う」と主導権を握る戦い方を仕掛けることで、彼の得点チャンスを増やすことができると考えている。そういう形をアジアカップに入ってからどれだけ多く出せるか。そこが香川復活のカギになるのかもしれない。

選手層の厚みが増し、新たな連携も

 彼らが交代した後の日本は、インサイドハーフ右に清武、左に今野が入り、武藤が左FWに陣取る形となった。清武と今野がこのポジションを担うのは新体制発足後、初めて。「今野は右利きで、清武もドイツで左でプレーしている」(アギーレ監督)という理由から途中で左右を入れ替わったが、2人は積極的に組み立てに参加していた。もちろん相手も疲労や交代などで前半よりバランスが崩れていたところもあったが、中盤のリズムは多少なりとも改善された印象だった。そして終盤の岡崎の2点目にも2人がそろって絡んだ。右サイドに寄っていた今野から本田を経由して清武にパスが渡り、彼の絶妙なクロスに岡崎が反応。岡崎らしい抜け出しからスライディングで右足ゴールを奪ったのだ。

「あの瞬間、自分と清武はインサイドハーフなのに2人そろって右サイドにいた。もしかしたらダメって言われるかもしれないけれど、やってみないことには監督の考えが分からない。だから攻撃の時は割と自由にやることを心掛けています」と今野が話したように、アギーレ監督はアルベルト・ザッケローニ前監督のような細かい攻撃戦術を与えず、感性を任せているところがある。その分、選手個々がより意思統一を図り、連携を高めていく必要がある。

「自分は1本のパスを裏でもらってフィニッシュできるっていうのが理想だけれど、自分だけがやろうとしても出し手の問題もある。コミュニケーションが今はまだ足りていないなというのが今日感じたこと。それは練習から取り組んでいかないと高まらない。ただ、ミランに比べて日本語が通じる分、解決スピードっていうのは早いんじゃないかなとは思う。残り1週間ある中で、少なくとも目に見えるような違いを期待してもらっていいんじゃないか」と本田はポジティブに語っていたが、連携面は確かに改善可能だろう。その精度が高まってくれば、ゴールチャンスの数は確実に増えるはず。それを決められるかどうかは、個人個人の冷静さとフィニッシュの質の問題だ。岡崎を筆頭に、本田や香川らフィニッシュを担う選手たちには、その部分をもっともっと突き詰めてもらいたい。

 フィジカル、決定力、連携といった課題が見えてきた一方で、良い部分もいくつかあった。右サイドの本田と酒井高徳の新コンビが絡んで攻めに出る回数は14年の6試合に比べて格段に多かったし、長谷部のアンカーも安定感があった。長友のキレあるパフォーマンス、けがから戻った川島の状態なども前向きな要素だろう。守備陣はオークランドシティの攻撃らしい攻撃がカウンター1回しかなかったため、評価は難しいところだが、森重と塩谷の攻撃の起点となるパス出しは効果的だった。インサイドハーフもこの日出場した4人の誰が出てもある程度はやれることも分かった。この日、柴崎と豊田をテストできなかったのは残念だったが、選手層は少し厚みを増したといえるのではないか。

 とはいえ、オークランドシティとアジアカップのグループリーグで対戦するパレスチナ、イラク、ヨルダンは全く違った特徴を持つチーム。中東勢の球際の強さや寄せの激しさ、カウンターの迫力は彼らとは比べものにはならない。そういう高い意識を持って、レベルアップを図っていくことが肝要だ。残された1週間を最大限有効活用して、隙のないチームに仕上げてほしいものだ。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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