“ドリブラー・パラダイス”聖和学園 輝きを放つ真性ストライカー坂本

川端暁彦

“ドリブラー・パラダイス”の聖和学園が快勝で2回戦進出。ハットトリックを達成した坂本(左)はその中でも大きな輝きを放った 【写真は共同】

 全国高校サッカー選手権の1回戦が31日に行われ、聖和学園(宮城)が秀岳館(熊本)に4−1で勝利。この柏の葉公園総合競技場での第1試合は、“ドリブラー・パラダイス”の聖和学園による独壇場となった。

 掲げられた「いつ魅せるの? 今でしょ」の応援バナーそのままに、11人全員がドリブラーという異質な集団が、初出場の緊張感の中で慎重に試合へ入ろうとした秀岳館をのみ込んでいく。MF小野圭を中心にドリブルで相手を引き寄せて、はがし、そこから展開していく独特の“遅い”サッカー。秀岳館も情報は持っていたが、見るのとやるのでは大違いで、「免疫ができていなかった」と秀岳館・段原一詩監督が悔やんだように、序盤から独特のサッカーを展開することで相手から攻守のリズムを奪い去った。

 聖和学園は練習の半分近くがドリブルだという。「なんとなくノリで」聖和学園を進路に選んでしまったという埼玉出身のFW坂本和雅は「最初は面食らった。踵(かかと)のリフティングとかやるんですよ」と笑う。こうして独特のスタイルで育てられたチームだという一面と、そういうスタイルに憧れてドリブラーが集まってくるという両面の効用で、とにかくボールを“持てる”選手が多い。センターバックまでドリブルで仕掛けることができるため、対戦相手は“いつものディフェンス”ができない。良い守備が良い攻撃のリズムを生むとはよく言うが、逆も真なり。秀岳館は“いつものディフェンス”ができずにいる内に、攻撃までバラバラになってしまった。

 ただ、これだけではなかなか勝てるサッカーにはならない。ドリブルでボールを運び、引き付けてから出すパスの先にいるのはドリブラーではなく、真性のストライカー。ノリで埼玉からやって来た坂本の存在感は、別格だった。開始10分、ドリブルで中央を切り崩してからDFに当たってこぼれてきたボールを、待っていた坂本が左足で突き刺して1点目。続く14分、そして後半7分にも坂本がいずれも左足で蹴り込んでハットトリック。「まったく緊張しないタイプ」と笑うエースが、あっさりと試合を決めた。

 この後、秀岳館も必死の反撃を見せて後半34分に1点を返すが、その直後の後半37分だった。今度は坂本のパスから小野が決めて、4−1。「このチームにない、アイツしかない個性」(DF佐々木澪)を持つストライカーが、ドリブラー集団の“魅せるサッカー”をゴールという形で完結させ、聖和が2回戦へと駒を進めた。
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著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

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