有馬でラストランを迎える名馬たち=引退戦にかけるそれぞれの思い

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今のトーセンラーなら中山でも大丈夫

藤原英調教師は「今のラーなら、中山でも大丈夫です!」と太鼓判 【netkeiba.com】

 2013年。天皇賞・春で2着だったトーセンラーは、秋にマイルCSという大幅な距離短縮路線を選んだ。

 3200mから半分の距離を選択したことについて、管理する藤原英昭調教師はこう説明する。

「一度マイルは使ってみたいと思う素質がありました。でもそれ以上に、得意の京都コースを使いたかったんです」

 これまで12戦した京都コースでは、一度も掲示板を外したことがない。

「京都でGIとなれば、天皇賞・春かマイルCSしかないからね。またあの頃、体力がしっかりとしてきたので使うことにしました。やはり短距離GIを使おうと思ったら、体力が充実しないと厳しいです。
 素質の高さを感じていたので、それをいかに殺さず開花させるかといった成長が課題でした。でも、成長を待つのは大変。ただ時間をかけるだけでなく、基礎訓練をしっかり丁寧にやっていきました。他のスポーツや、楽器の演奏でも基礎練習は大切でしょ!?」と、その重要さを話す。その成果が実を結び、初のマイル戦でGI制覇を成し遂げた。

 前走、連覇を目指したマイルCSは4着だったが、内の馬が残る馬場で外から脚を伸ばしてきた。

「時計的にもよく走っています。有馬記念は距離が延びますが、賢くて自在性のある馬です。前走より馬は良くなっていますし、追い切りに騎乗した武豊騎手の評価も高いです。有馬記念が京都なら良かったんですが(笑)、今のラーなら、中山でも大丈夫です!」

 2011年3月11日、東日本大震災を宮城県の山元トレセンで被災した。皐月賞が控える中、道路は寸断され栗東に帰ってくるのも一苦労だった。

「よく復活してくれました。感謝の気持ちです。ドラマを持った馬ですし、武豊騎手のGI100勝目を飾った馬でもあります。引退後は、種牡馬入りしますが、ラストランをハッピーエンドで飾って欲しいですね」

 これまで数々のドラマを生んだ有馬記念で、ラストランに挑む。

持ち味の“並ばれたら抜かせない根性”で

ヴィルシーナも大一番に向けて状態アップ、持ち前のしぶとさでアッと言わせるか 【netkeiba.com】

 史上初のヴィクトリアM連覇を成し遂げたヴィルシーナ。

 秋初戦に予定していた府中牝馬Sは、腰に疲れがあったため回避し、エリザベス女王杯へ直行となったが、一度使ったことでラストランへ向けて大きな上昇カーブを描いている。

「内田博幸騎手が跨った1週前追い切りでも、自分からハミをとって、この馬のいい頃の感じになってきました。冗談で“同一GI(ヴィクトリアM)3連覇を狙います”って言いたいくらい、具合はいいです」と友道康夫調教師は、ハリのある体とメンタルの良化に笑顔を見せる。

 最終追い切りに騎乗した調教パートナーの竹之下智昭騎手も「(エリザベス女王杯を使って)順調に上向いています」と話す。

 今春は、ヴィクトリアM連覇から、牡馬相手の宝塚記念で3着と、いい流れを作った。

「うまく逃げ粘った宝塚記念よりさらに直線が短くなる中山コースは、もっと展開の助けを借りることができると思います。持ち味の“並ばれたら抜かせない根性”を生かす競馬をしてほしいですね」

 そう期待を込める友道調教師は、新馬戦でヴィルシーナに対する期待値が大きく上がったという。

「函館で調教をして、前日に札幌へ輸送したんですが、環境の変化に戸惑っていないかなと心配し、レースの朝、馬房まで様子を見に行ったんです。そしたら、横になって寝てたんです。“なかなか大物だな”って思いました。レースでも能力を見せてくれましたしね」

 2歳牝馬にして、環境の変化に動じないメンタルと、デビュー戦では馬群の最内から突き抜ける能力を見せた。翌年2012年は、年度代表馬となったジェンティルドンナとクラシック三冠で接戦を演じ、2013年はヴィクトリアMで念願のGI制覇。“大魔神”こと元メジャーリーガーの佐々木主浩氏にとってもこれが嬉しい初GI制覇となった。

 しかし嬉しさも束の間、夏休みを挟むと長いトンネルに入ってしまった。闘志を復活させるため、調教やレース選択などに工夫をこらし挑んだ今年のヴィクトリアMは「オーナーと一緒にゲンを担いで、勝利した昨年と同じ行動パターンをとったんです(笑)。嬉しかったですね! やっぱりこの馬はすごいなと思いました」(友道師)

 再び掴んだ栄光は、厩舎にとっても嬉しいものだった。安田晋司調教助手はこう話す。

「一応担当は僕になっていますが、他の馬の調教に乗ることも多く、手入れやひき運動には、ほとんどのスタッフが携わりました。みんなの協力と助け合いがあってのGI勝利ですし、みんなに可愛がってもらったからこその、人懐っこいヴィルシーナだと思います」

 母ハルーワスウィートは、開業して最初に預託が決まった馬だ。「思い入れのある血統で、これからはヴィルシーナの仔を走らせるのが楽しみです。ジェンティルドンナとは、これからは産駒での勝負になるでしょうね」と友道調教師は嬉しそうに話した。

 安田調教助手も「ヴィルシーナの仔を担当できることになったら幸せやろなぁと思います。しなやかさが伝われば、産駒も走ると思いますよ」と目を輝かせた。

『引退』という響きにはどこか物悲しさが伴う。しかし、名馬にとって引退は、決して淋しいものではない。彼ら・彼女たちには、その強さを次世代に継ぐというこれからの仕事が待っている。

 次なるステップへ向けて、笑顔と大きな声援でターフから見送ってあげたい。(了)

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