中嶋一貴のカテゴリーを超えた“速さ” ル・マンの手応え、スーパーGTに可能性

田口浩次

イベントとしても楽しめるスーパーGT

スーパーGTはクラスの異なるマシンの混走レース。オーバーテイクは見どころであり、勝負を左右するポイントでもある 【Getty Images】

――続いてスーパーGTについて聞かせてください。まず、スーパーGTは親子での観戦者も多く、キャンギャルが華やかというイメージがあります。実際はどうなのでしょう?

 そこはプロモーターが頑張っている部分だと思います。広く一般の人が観戦に来て楽しんでいただける、イベントとしての面白さも追求しています。その成果もあって、ファンの数も多いですし、自動車メーカーも多く参戦していることから、メーカーとしてのプロモーションも熱心です。レースを楽しむことはもちろんですが、レースが行われている裏側でも楽しめるような、トータルのイベントとして高いレベルにあるように思います。僕が個人的にレースを知らない人に声を掛けるとき、最も敷居が低いというか、勧めやすいのはスーパーGTですね。

――WECと同じようにGT500とGT300の混走レースですが、やはりGT300の追い越しはレースでも重要なポイントですか?

 フォーミュラとの比較が一番分かりやすいかと思いますが、やはり高いレベルのプロ同士での争いだと、失敗は少ないですよね。レースは、失敗や外的要因が加わらないと、順位の変動は起きにくいスポーツだと思います。一方のスーパーGTでは、GT300同士がバトルしている中で、オーバーテイクを仕掛けなければいけないわけですから、大きく譲ってくれるわけじゃない。

 間をかき分けながら前に行ける能力、それだけで1周2〜3秒変わってくるレースなので、必然的にGT300のマシンの追い越しに戸惑っているときに隙が生まれて、ライバルのGT500のマシンに抜かれてしまう、なんてこともあります。そうしたバトルを生む要因が多いので、ファンが見ていても飽きないポイントなのだと思います。

タイで感じたレースへの憧れと熱意

今季初めてタイで開催されたスーパーGTは大いに盛り上がった。中嶋も「良い意味でタイに驚かされた」 【スポーツナビ】

――スーパーGTファンの間では知られている話題ですが、今年からスーパーGTのレース車両に関して、ドイツのDTM(ドイツツーリングカー選手権)と米国のグランダムという、3つのレースカテゴリーで共通のレギュレーションに基づいたマシンとなりました。今後はDTMやグランダムとの交流戦や世界選手権など、大きく発展していくと思いますか?

 ぜひそうなってほしいですし、そうなることを目標として今年のレギュレーションになったのだと思います。未来的な発展性があることが一番の魅力ではないでしょうか。また、DTMやグランダムのレースには、スーパーGTがまだまだ見習うべきファンへのホスピタリティーが充実しているというイメージがあります。個人的には、それぞれの良い部分をお互いに吸収することで、結果としてファンの満足度がさらに高くなるレースイベントへと発展してもらいたいです。

――今年、スーパーGTはタイでレースが初開催されました。タイでの印象はどうですか?

 良い意味でタイには驚かされました。これまでタイにモータースポーツのイメージはそれほど強くなかったのですが、実際に訪れてみると、クルマへの熱意やクルマ生活を楽しむという人々の雰囲気がありました。今回のレース会場は、首都バンコクからバスで6〜7時間も離れた場所で開催されましたが、3日間で13万人というファンが集まりました。僕自身の経験からも、実際にそれだけの数がいるなと実感できる人出でした。

 また、レースの裏側でやっていたモーターショー的なイベントへの動員も本当にすごかったです。きっと昔の日本もそうだったのだと思いますが、クルマが大きな娯楽なのだと思います。クルマは憧れであり、レースにも憧れと熱意が感じられました。あとから人に聞いた話だと、タイ国内でのメディアの扱いも大きかったそうです。本当に開催する意味があるレースだったと思います。

――今シーズンのベストレースや印象に残っているレースを教えてください。

 印象に残っているのは、やはりタイのレースかもしれません。場所が遠いので、行く前はドキドキしましたが(笑)。行ってみたら、施設も素晴らしくて、人も素晴らしくて、レースにも優勝できましたから(笑)。今年のスーパーGTは、僕自身の手応えというか、仕事としての感覚はどのレースも良かったと思います。マシンもタイヤもそれぞれなので、他のカテゴリーのレースよりも、自分じゃない部分の要因が多く絡みますから、うまくいくときはうれしいけれど、うまくいかないときは歯がゆいこともあります。

(後編は12月19日(金)に掲載予定)

中嶋一貴プロフィール

1985年1月11日生まれ。愛知県出身。父は元F1ドライバーの中嶋悟。トヨタのレーシングスクールで育ち、2007年にF1テストドライバーへ。同年ブラジルGPでデビューを果たすと、08年から2ジーズンにわたってレギュラードライバーを務めた。11年に国内レースに復帰し、12年にフォーミュラ・ニッポン(現スーパーフォーミュラ)のチャンピオンに輝いた。14年はル・マン24時間レース予選で日本人初のポールポジションを獲得、スーパーフォーミュラでは2度目の年間王者の座に就いた。

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