関塚隆と石崎信弘、邂逅する2人の指揮官 J1昇格へ、交錯するそれぞれの思い
4度目の正直でのJ1昇格と1年目のJ2優勝
石崎監督はどのようなプランを用意するのか。6位の山形は90分以内での勝利が求められる 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
自身初のJ1昇格を勝ち取ったのは06年である。監督就任1年目の柏レイソルで、「4度目の正直」を実現させた。11年にも、コンサドーレ札幌をJ1へ昇格させている。「悲運の指揮官」とも言われてきた監督としてのキャリアは、少しずつ色彩が変わってきたと言えるかもしれない。
関塚が作り上げてきた監督としての履歴書は、悲劇の色を感じさせるものではないだろう。Jリーグでの監督歴の第一歩には、04年のJ2優勝が刻まれている。
彼が束ねた川崎は、J1でも確かな存在感を示した。就任3年目の06年はリーグ戦で2位に食い込み、翌07年はヤマザキナビスコカップで準優勝した。健康への不安を理由に08年序盤にチームを離れるが、現場に復帰した09年はリーグ戦2位、ナビスコカップ準優勝の成績を残した。川崎に現在も息づく攻撃的なサッカーを定着させたのは、他でもない関塚である。
09年を最後に川崎を離れると、戦いの舞台を世界へ移した。12年のロンドン五輪で、U−23日本代表をベスト4へ導いた。
だが、Jリーグと国際舞台に記してきた足跡も、彼自身にすれば「あと一歩」の思いを募らせるものかもしれない。川崎ではついにタイトルを手にできず、躍進を印象付けた五輪でも表彰台を逃したからである。シーズン途中でジュビロ磐田の再建を託された13年も、J2降格の苦汁を味わった。
攻撃力と守備力はほぼ互角、勝敗を分ける采配
天皇杯準決勝では敗れたものの、リーグ戦では1勝1分け。山形を退け、千葉はJ1昇格を手繰り寄せることができるか 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
今シーズンのJ2で、山形はリーグ4位タイの57ゴールをマークしている。一方の千葉は6位の55点だ。失点はどちらも「44」である。攻撃力と守備力の水準は、似通っていると言っていい。
山形はキーマンを欠く可能性がある。11月30日に行われたジュビロ磐田とのプレーオフ準決勝で、ブラジル人FWディエゴが負傷したのだ。チーム内得点王の彼を欠くことになると、石崎は戦略の練り直しを迫られるかもしれない。
今シーズンのJ2で、山形は試合開始から15分までに13点を記録している。J2の全22チームで最多の数字だ。
千葉のディフェンスはどうか。試合開始から15分までの失点は、リーグで2番目に少ない。目立つのは後半開始から15分までで、この時間帯に13失点を喫している。15分刻みに失点を集計した千葉のデータで、もっとも多いのが後半開始から15分までなのである。
プレーオフは年間順位の優位性が担保されており、6位の山形は90分以内で勝利しなければならない。それだけに、石崎がどのようなゲームプランを用意するのかは興味深い。ディエゴの負傷によって「戦略の練り直しを迫られるかもしれない」と書いたが、第三者的には負の要素でしかない主力のケガも、相手を心理的に揺さぶる手立てに成り得るものだ。彼我の得点と失点の分布も含めて、経験豊富な石崎は昇格の足掛かりを探し出すはずだ。
引き分けでもJ1昇格を手繰り寄せられる千葉も、万難を排するだろう。関塚もまた、臨機応変なゲームプランを用意するはずだ。今シーズンのJ2では山形に1勝1分けと勝ち越したが、プレーオフはリーグ戦とまったく違う重みがある。
石崎にとって山形は、監督としてのキャリアをスタートさせたクラブである。指導者としての原点と言っていいクラブを、11年以来のJ1へ押し上げるとの思いは強い。
関塚にも譲れない思いがある。10年からJ2での戦いを強いられ、過去2シーズンはプレーオフで涙をのんできた千葉のJ1復帰は、彼自身を新たなステージへ押し上げることにもなる。中位に低迷していたチームをプレーオフへ導いたリーグ戦の戦いぶりは、関塚と千葉にとって歓喜への序章に過ぎないのだ。
試合終了のホイッスルが鳴った瞬間に、拳を突き上げるのは山形か、千葉か。石崎か、関塚か。爆発的な歓喜と深い絶望が交錯する一戦は、キックオフから目が離せないものとなる。