関塚隆と石崎信弘、邂逅する2人の指揮官 J1昇格へ、交錯するそれぞれの思い

戸塚啓

4度目の正直でのJ1昇格と1年目のJ2優勝

石崎監督はどのようなプランを用意するのか。6位の山形は90分以内での勝利が求められる 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 監督としての石崎には、「あと一歩」のフレーズが付きまとってきた。大分トリニータを率いた1999年と00年は、勝ち点1差でJ1昇格を逃した。川崎の監督として戦った03年も、J1昇格圏に勝ち点1差で届かなかった。

 自身初のJ1昇格を勝ち取ったのは06年である。監督就任1年目の柏レイソルで、「4度目の正直」を実現させた。11年にも、コンサドーレ札幌をJ1へ昇格させている。「悲運の指揮官」とも言われてきた監督としてのキャリアは、少しずつ色彩が変わってきたと言えるかもしれない。

 関塚が作り上げてきた監督としての履歴書は、悲劇の色を感じさせるものではないだろう。Jリーグでの監督歴の第一歩には、04年のJ2優勝が刻まれている。

 彼が束ねた川崎は、J1でも確かな存在感を示した。就任3年目の06年はリーグ戦で2位に食い込み、翌07年はヤマザキナビスコカップで準優勝した。健康への不安を理由に08年序盤にチームを離れるが、現場に復帰した09年はリーグ戦2位、ナビスコカップ準優勝の成績を残した。川崎に現在も息づく攻撃的なサッカーを定着させたのは、他でもない関塚である。

 09年を最後に川崎を離れると、戦いの舞台を世界へ移した。12年のロンドン五輪で、U−23日本代表をベスト4へ導いた。

 だが、Jリーグと国際舞台に記してきた足跡も、彼自身にすれば「あと一歩」の思いを募らせるものかもしれない。川崎ではついにタイトルを手にできず、躍進を印象付けた五輪でも表彰台を逃したからである。シーズン途中でジュビロ磐田の再建を託された13年も、J2降格の苦汁を味わった。

攻撃力と守備力はほぼ互角、勝敗を分ける采配

天皇杯準決勝では敗れたものの、リーグ戦では1勝1分け。山形を退け、千葉はJ1昇格を手繰り寄せることができるか 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 7日のJ1昇格プレーオフを前に、山形と千葉は11月26日の天皇杯準決勝で対戦している。山形が3−2で勝利をつかんだが、千葉は直近のリーグ戦から大幅にメンバーを入れ替えていた。プレーオフの行方を占う参考資料にはならないだろう。

 今シーズンのJ2で、山形はリーグ4位タイの57ゴールをマークしている。一方の千葉は6位の55点だ。失点はどちらも「44」である。攻撃力と守備力の水準は、似通っていると言っていい。

 山形はキーマンを欠く可能性がある。11月30日に行われたジュビロ磐田とのプレーオフ準決勝で、ブラジル人FWディエゴが負傷したのだ。チーム内得点王の彼を欠くことになると、石崎は戦略の練り直しを迫られるかもしれない。

 今シーズンのJ2で、山形は試合開始から15分までに13点を記録している。J2の全22チームで最多の数字だ。

 千葉のディフェンスはどうか。試合開始から15分までの失点は、リーグで2番目に少ない。目立つのは後半開始から15分までで、この時間帯に13失点を喫している。15分刻みに失点を集計した千葉のデータで、もっとも多いのが後半開始から15分までなのである。

 プレーオフは年間順位の優位性が担保されており、6位の山形は90分以内で勝利しなければならない。それだけに、石崎がどのようなゲームプランを用意するのかは興味深い。ディエゴの負傷によって「戦略の練り直しを迫られるかもしれない」と書いたが、第三者的には負の要素でしかない主力のケガも、相手を心理的に揺さぶる手立てに成り得るものだ。彼我の得点と失点の分布も含めて、経験豊富な石崎は昇格の足掛かりを探し出すはずだ。

 引き分けでもJ1昇格を手繰り寄せられる千葉も、万難を排するだろう。関塚もまた、臨機応変なゲームプランを用意するはずだ。今シーズンのJ2では山形に1勝1分けと勝ち越したが、プレーオフはリーグ戦とまったく違う重みがある。

 石崎にとって山形は、監督としてのキャリアをスタートさせたクラブである。指導者としての原点と言っていいクラブを、11年以来のJ1へ押し上げるとの思いは強い。

 関塚にも譲れない思いがある。10年からJ2での戦いを強いられ、過去2シーズンはプレーオフで涙をのんできた千葉のJ1復帰は、彼自身を新たなステージへ押し上げることにもなる。中位に低迷していたチームをプレーオフへ導いたリーグ戦の戦いぶりは、関塚と千葉にとって歓喜への序章に過ぎないのだ。

 試合終了のホイッスルが鳴った瞬間に、拳を突き上げるのは山形か、千葉か。石崎か、関塚か。爆発的な歓喜と深い絶望が交錯する一戦は、キックオフから目が離せないものとなる。

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著者プロフィール

1968年、神奈川県出身。法政大学第二高等学校、法政大学を経て、1991年より『週刊サッカーダイジェスト』編集者に。98年にフリーランスとなる。ワールドカッ1998年より5大会連続で取材中。『Number』(文芸春秋)、『Jリーグサッカーキング』(フロムワン)などとともに、大宮アルディージャのオフィシャルライター、J SPORTS『ドイツブンデスリーガ』などの解説としても活躍。近著に『低予算でもなぜ強い〜湘南ベルマーレと日本サッカーの現在地』(光文社新書)や『金子達仁&戸塚啓 欧州サッカー解説書2015』(ぴあ)がある

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