世界一幸運…スミヨンが贈る日本への感謝 JC覚醒エピファ、有馬はどっちに転ぶ?

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「この馬の強さには本当に驚かされた」

それでも最後の直線は豪快に抜け出しての快勝だ! 【中原義史】

 ここまでの話を聞くと、スミヨンとしても決して上手に乗れたわけではなかったということが伝わってくる。それでも、エピファネイアは圧勝した。つまり、世界を股にかける名手の想像のはるか先を、エピファネイアは走っていたのだ。

「そうだね。普通、あれだけ行きたがる馬だったら、ひと息もふた息も入れないと2400メートルはもたない。僕も直線に入ったらほんの少しでも、100メートルでも抑えて行こうと思ったんだけど、エピファネイアの方はまるでここからがスタートのように走り出した。だから僕も考えを変えて、追い出して行ったら本当にフレッシュな状態のようにドン!と飛び出していったんだよ。この馬の強さには本当に驚かされた」

 かつて凱旋門賞で2度コンビを組み、いずれも2着だったオルフェーヴルの例を出し、「ゴール前で止まってしまうかもと思ったけど、この馬の場合は最後までまだまだ行けるという感じだった」とも振り返ったスミヨン。パッチリとした瞳をさらに大きくして語る表情がとても印象的だった。そして、こんなことも言っていた。

「僕は世界で一番、幸運なジョッキーだよ(笑)」

次走の有馬でもこのコンビは見られるだろうか?

日本への大きな感謝を語った名手スミヨン、有馬記念でもその騎乗を見たいものだ 【中原義史】

 今回、スミヨンはエピファネイアに乗るために来日したというわけではなく、そもそもはワールドスーパージョッキーズシリーズに出場するために日本にやって来た。主戦・福永祐一がジャスタウェイに騎乗するために鞍上が空いていたエピファネイア陣営としては、渡りに船とばかりにスミヨンに依頼したという経緯がある。
「この週末だけ乗りに来ただけなのに、これだけ強い馬に乗せてもらって本当に感謝しているし、たった1週間でこれだけの思いができるんだから、僕は本当にラッキーだよ(笑)」

 その上で、日本に対する大きな感謝の気持ちを切々と語り始めた。
「“ジャパンカップでエピファネイアに乗るよ”と自分のツイッターに投稿したとき、最初は牝馬と書いてしまうポカをやっちゃったんだけど、日本のファンはたくさんの応援をくれたんだ。それが心強くて本当に感謝しているし、日本のファンを身近に感じている。また、ご存じのとおり、僕は体重のコントロールにすごく苦労していて、日本で2カ月も3カ月も乗るとなると、本当にカラカラになってしまうから思うように結果が出せないこともあった。だから、また短期免許で日本で乗るよ、と気軽には言えないんだけど、それでも今回のように今週末だけの騎乗なのに強い馬に乗せてもらったり、ヨーロッパやドバイで日本の強い馬に乗せてもらって、本当に日本には感謝しているんです」

 角居調教師の話によると、次走は1年を締めくくる大一番、グランプリ有馬記念(12月28日、中山競馬場2500メートル芝)が目標。スミヨンも「もちろん、乗りたい」と意欲を見せるが、それが実現するにはさまざまな手続きをクリアしなければならず、鞍上については再び流動的となりそうだ。年末にもぜひスミヨンとエピファネイアのコンビを見たいものだが、果たして、どうなるだろうか?

母シーザリオとは違うパワータイプ

次走は有馬記念へ、勝てば年度代表馬の座も見えてくる 【中原義史】

 そして、エピファネイアとしては、菊花賞以来の煮え切らない敗戦に終止符を打つ快勝劇。父シンボリクリスエス×母シーザリオという、日本競馬が誇る名馬の両親から受け継いだ才能の塊が、再び強烈な輝きを放ち始めた。シーザリオも管理していた角居調教師が言う。
「お母さんから高い能力を受け継いでいると思いますが、お母さんとはちょっと違ったパワータイプ。パワーが有り余っているのでちょっと困っているんですが(笑)」

 今後も燃えすぎる気性をどう抑えていくかが鍵になってくる。しかし、円熟を迎えるにつれてその気性を上手にコントロールできるようになれば、父、母以上の快進撃を見せたって不思議ではない。それほどの逸材であることは皆が認めるところだろう。角居調教師の言葉を借りれば、“どっちに転ぶか”という危うさを残しつつも、勝てば年度代表馬も見えてくる有馬記念での走りが、今から楽しみだ。JCだけの覚醒だったのか、それとも……。

(取材・文:森永淳洋/スポーツナビ)

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