村上大介、ポジティブ思考が生んだ初V 引退を考えた男が見せた華麗なる復活劇

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“日本人第3の選手”が躍動

村上大介がかつて苦い経験を味わったNHK杯で初優勝。華麗なる復活劇を見せた 【坂本清】

 フィギュアスケートで村上と言えば、女子のエース・村上佳菜子(中京大)を連想する人がほとんどだろう。さらにダイスケと言えば、字は違うものの先日現役を退いた高橋大輔がまず思い浮かぶ。フィギュアスケートの知識がなくても彼らの名前と顔は多くの人が知っているはずだ。
 しかし、今回この記事で取り上げるのは、同じ村上でも女子のエースではなく、同じダイスケでも引退したレジェンドでもない。村上大介(陽進堂)というひとりのスケーターである。

 11月28日から行われたNHK杯(大阪・なみはやドーム)。男子で注目されていたのは五輪王者の羽生結弦(ANA)が、中国杯での負傷からどこまで回復しているか。またはスケートカナダでグランプリ(GP)シリーズ2勝目を挙げた無良崇人(HIROTA)が初のファイナル進出を決められるかというところだった。2年ぶりのGPシリーズ出場となった村上は、失礼を承知で言えば“日本人第3の選手”という位置付けだった。

 しかし、「ノープレッシャーだった」という第3の男はショートプログラム(SP)から躍動した。冒頭の4回転サルコウ+ダブルトウループのコンビネーションをきれいに決めると、その後もノーミスの演技を披露。自己ベストを更新する会心の滑りで、本来の調子とは程遠かった羽生を抑え、3位(79.68点)につけた。さらに29日のフリースケーティング(FS)では、プレッシャーに苛まれた羽生と無良がミスを連発する一方で、のびのびとした演技を見せる。序盤の4回転サルコウ、続く4回転サルコウ+ダブルトウループを見事に着氷。その後は「緊張が全部ふっとび」確実にエレメンツをこなしていった。会場がスタンディングオベーションに包まれた演技につけられたスコアは166.39点。合計246.07点と自己ベストを40点以上も更新し、GPシリーズ初優勝を果たした。

苦い経験を味わった2年前のNHK杯

SPでは会心の演技を披露し、スタンディングオベーションを浴びた 【坂本清】

 村上にとってNHK杯は、忘れたくても忘れられない苦い経験を味わった大会である。2年前、高橋や羽生とともに出場したNHK杯の前日練習で、トリプルアクセルの着氷時に手をつき右肩を脱臼。自ら骨を入れ直し、テーピングや鎮痛剤を飲むなどの処置で翌日のSPに強行出場したものの、冒頭の4回転サルコウで転倒した際、完全に右肩が外れてしまった。

 その後すぐに自身が拠点を置く米国に帰国。手術を受け、2012−13シーズンはほぼ棒に振った。村上は当時の状況を述懐する。

「その年の全日本選手権は米国からユーチューブで見ていました。本当に悔しかったし、『引退したい』とまで思いました。ただそういう考えでスケートを辞めたくなかった。とにかくどこまで成績を上げられるかというのを自分でも示したかったので、その思いで頑張りました」

 何の因果か、2年ぶりのGPシリーズ復帰戦は再びNHK杯だった。SPでは会心の演技を披露し、スタンディングオベーションを浴びた。「最後に思いがあふれて」ガッツポーズを繰り返したが、「復活」という言葉に対しては首を横に振った。

「まだ自分では復活したとは思っていません。SPでは納得いく滑りができましたけど、FSはさらに厳しい。今日の点数と結果は忘れないとだめですね」

 SPとFSを2つそろえて初めて「復活」と言える。村上は浮き立つ自分の心を戒めるためにそう語ったのだろう。

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