“1億ドルの男”松坂大輔の静かなる帰国 重圧を背負って歩み続けた8年間

杉浦大介

米メディアはリスペクト

メッツでの働きと献身的な姿勢に米国のメディアは好意的なコメントを送る 【Getty Images】

 ただ、それほど生真面目に投げ続けた松坂の姿が、最後の1年では少し違う形で米国で評価されていたことも付け加えておきたい。

 メジャー8年目の14年はメッツで過ごし、3勝3敗1セーブ、防御率3.89。凡庸な数字に見えるかもしれないが、台所事情の苦しいチーム内で、先発、中継ぎ、ロングリリーフと多彩な役割で貢献した。本人は納得していないかもしれないが、その働きと献身的な姿勢に好印象を持った関係者は少なからず存在する。

 筆者は『日本人投手黄金時代』という本を執筆するにあたり、昨夏から多くのメジャー関係者に話を聞いた。松坂については“メジャーキャリアは失敗”という声ばかりが返ってくるかと思えば、そうではなかった。

「開幕時にマイナーに送られたときは腹も立っただろうけど、辛抱強く結果を出してメジャーに戻ってきて、先発、中継ぎでも何でも受け入れ、(メジャーでも)結果も出してきた。チーム優先の姿勢と、成功への欲求が彼の姿からは見えてくる。松坂という人間の本質を示している思う」

 AP通信のマーク・フィッツパトリック記者はそう語り、そして似た趣旨のコメントを残した関係者は少なくなかった。

「8年もメジャーで生き残れたのであれば、そのキャリアが失敗のはずがない」と語ったメディアもいた。これらのコメントからは、10年に渡って活躍すれば1年10万ドル(約1200万円)に及ぶ年金が満額で支給されるメジャーにおいて、それに近い期間を生き残ってきた松坂へのリスペクトが垣間見えてくる。

“1億ドルの男”の称号と重圧を背負って歩んだ8年

 さまざまな意味で話題を呼んだ松坂の渡米が、日本人選手のメジャー挑戦史の中でも重要な1ページだったことは揺るがない事実である。

 先発投手としては一流の成績は残せず、紆余(うよ)曲折のキャリアは本人にとっても不本意だろう。注目度を失った上での今冬の“静かなる帰国”は、先発という役割での椅子取りゲームに勝てなくなった結果に違いない。

 ただ、それでも“1億ドルの男”の称号と重圧を背負って歩み続けた松坂の足跡が、奇麗に消えてしまうわけではない。誇大宣伝に見合わなかったからといって、完全な失敗と決めつけるのは短絡的過ぎる。

 新陳代謝の激しい米スポーツ界において、8年という長きに渡って活躍したことが日本でも再評価される日はいずれ来るのではないか。そして、最後まで真摯(しんし)に投げ続ける姿を見せたがゆえに、松坂の日本でのキャリアの成功を願っている関係者も米国には少なからず存在するに違いないのである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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