ラグビー日本代表、敗戦から得た収穫 欧州遠征リポート

斉藤健仁

「欧州流」のスクラムにはまだ対応できず

ワールドカップに向けてスクラムのさらなる強化が求められる 【斉藤健仁】

 そして、遠征のもう1つの目的は、2年前に元フランス代表のマルク・ダルマゾがコーチに就任して以来、成長を続けて「日本代表の武器」(ジョーンズHC)となっているスクラムがどこまで成長しているか試すことだった。2年前の対戦時、日本代表は両チームに明らかに押されていたが、6月にはスクラムの強豪国、イタリア代表とも互角以上に組み合っていた。再戦で進化した姿を見せたかった。

 だが現実は甘くなかった。ルーマニア代表にはペナルティートライを献上、フランスの1部リーグで活躍する第1列がそろうグルジア代表には、終始劣勢。1年前にルールが変わり、スクラムをヒットする前に1番が3番、3番が1番のジャージーをバインド(つかみ合う)することになった。そのとき、押したり引いたりしてはいけないが、ルーマニアもグルジアのFWもバインドしながら後ろの5人とともに体重をかけてきたという。日本代表のFW陣は、欧州特有の柔らかい芝と、欧州のスクラムにはまだ対応できなかったというわけだ。

 HO木津は「グルジア代表、スクラム強かったです。相手の8人での体重の乗り方はひと味もふた味も違った。エディーさんには試合中にスクラムワークを修正してほしいと言われました。今日の経験を踏まえてポジティブにとらえてやっていきたい」ときっぱりと答えた。またPR畠山健介(サントリー)は冷静だった。「スクラムはいきなり理由もなく強くなったりするものではないので、まずしっかりとフィジカルの強化ともっと8人で戦うというマインドをしっかり持つ必要がある。そして何より時間がないのでより多くの相手とスクラムを組むことが大事です」

「今日の負けはワールドカップにつながる」

グルジア戦に途中出場したSH矢富。ケガを乗り越えて5年ぶりに日本代表に復帰した 【斉藤健仁】

 改めて今回の遠征の意義について、両試合とも視察した岩渕健輔ゼネラルマネージャーが「アウェイで戦うことは良いことです。2年前に戦った相手と再び対戦しセットプレーをチェックできた」と言えば、ジョーンズHCも「セットプレーでボールを獲得できないとプラン通りに進めるのは非常に難しい。このような経験ができて良かった。また何人かテストマッチを経験させることができた」と語った。

 グルジア代表に負けたからと言って、敵地でカナダ代表とアメリカ代表に勝ち、ホームでイタリア代表に初めて勝利しテストマッチ9勝1敗で終えた今シーズンは「喜んで良い成績」(ジョーンズHC)だ。グルジア代表戦こそケガで出場できなかったFLリーチ マイケル主将(東芝)は「個人のスキルやパワーがまだ足りないが、この1年すごくハードに練習してきてすごく成長しているし、チームのやっていることは間違いない。今日の負けはワールドカップにつながる」と10カ月後の本番を見据えた。

 3年前、桜の季節に嵐の中で船出したエディー・ジャパンは、来年、いよいよワールドカップイヤーを迎える。新春にはスコッドの大枠を固め、4月から再始動する。来秋、「この負け、経験があったからこそ」というコメントが聞ければ、と思う。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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