大リーガーに前田、金子はどう映った? 本来の出来でなくとも示した価値

中島大輔

モーノー、金子に「バランス崩された」

WBC球の滑るボールに金子も苦労していたと語った捕手の伊藤。それでも瞬時に使えるボールを見極めた金子の投球は見事だった 【Getty Images】

 一方、金子はどうだろうか。2回にセンターへ2点本塁打を突き刺したモーノーが語る。
「金子は必要なところで必要な決め球をしっかり投げて、アウトをとっていたと思う。われわれはなかなか反撃の糸口をつかむことができず、いい状況になってもなかなか打つことができなかった。要所でフォークを投げてきて、バランスを崩されて振るという形にさせられていた」

 現役時代に投手だったジョン・ファレル監督は、試合後の会見で次のように話した。

「金子と対戦する前に、持ち球をしっかり研究していたつもりだった。まさにこちらの知っている内容を一番良い形で見せられたと思う。彼はすべての球種でストライクを取ることができる。スピードに変化をつけることができる。フルカウントになってからストレートで勝負できる。さらにほかの球種を見事に織り交ぜて、バッターのバランスを崩すことができる投手だとあらためて見せつけられた」

黒田やダルらに並ぶ適応力

 メジャーリーガーたちに前田、金子が印象を残したのは、ともに豊富な球種でストライクをとれる点だ。前田の「4つのボール」とは、ストレート、カーブ、スライダー、落ちるボール(ツーシーム、チェンジアップ)。一方、金子はストレート、スライダー、カットボールでカウントをつくり、追い込んだ後はチェンジアップを有効に使っていた。
 マダックスコーチが前田を「アウトをとれる投手」、ファレル監督が金子を「すべての球種でストライクをとれる」と形容したが、両右腕ともに本調子でなく、かつ普段より硬いマウンド、ワールド・ベースボール・クラッシクの「滑るボール」で試合をつくったことに価値がある。

 第2戦の後、捕手の伊藤光(オリックス)は金子のマウンド、ボールへの適応についてこう話していた。

「ボール(の違い)が気になっていたと思いますけど、変化球が抜けちゃいけないという意識が昨日の調整の段階からすごく強かった。ワンバウンドしてボールになるかという、真ん中のストライクを投げることのできない場面が多かったので、『そこは金子さんでも難しいんだな』と思いました。でもチェンジアップや、いつも得意としているボールに関しては制球ができていた。それ以外のボールに関しては、今日はちょっと良くなかったなと思います。ただ球威自体は良かったので、『もう1回投げろ』と言われれば、しっかり投げられると思います」

 日米のボールやマウンドの違い、そして前田と金子、メジャーリーガーたちがシーズンほどのコンディションにないことを、差し引いて考える必要がある。それでも、多彩な球種からその日に使える球、使えない球を瞬時に見分けて試合をつくったことに、侍ジャパンの両エースに先発投手としての価値が見てとれた。

 黒田博樹(ヤンキースFA)、岩隈久志(マリナーズ)、ダルビッシュらメジャーでエース格として活躍している日本人投手の特徴は、豊富な引き出しを自身の投球スタイルとして持ち、相手打者やその日の自分の調子に合わせて微細に調整する適応力だ。前田も金子も、同じ力を備えていることを示したマウンドだった。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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