“負の連鎖”に陥ったオランダ代表 ヒディンクは背水の陣でラトビア戦に臨む

中田徹

ヒディンクの衝撃的な発言

12日に行われたメキシコとの親善試合に2−3で競り負けたオランダ 【Getty Images】

 オランダは11月12日(現地時間)、アムステルダム・アレーナでメキシコとの親善試合を戦い、2−3で競り負けた。オランダにとってより重要なのは16日に行われるユーロ(欧州選手権)2016予選、対ラトビア戦の方。本来の彼らなら「たかが親善試合の敗戦」で片付くところだ。しかし、今のオランダは“負の連鎖”に陥っており、メキシコ戦の敗戦は大きなダメージを持って受け止められている。その背景には、楽観視されていたユーロ予選のスタートでオランダは1勝2敗とつまずき、首位グループのチェコ、アイスランドとの差がすでに勝ち点6まで開いてしまったことにある。

 アイスランドとのアウェーゲームを0−2で落とし、予選2敗目を喫した後、フース・ヒディンクの更迭もささやかれたが、10月20日、オランダサッカー協会(KNVB)は「少なくとも11月のメキシコ戦、ラトビア戦まではヒディンク体制で行く」と発表した。例えオランダが不振とはいえ、少なくともホームゲームならラトビアに順当勝ちするだろうから、差し当たりの落ち着きは取り戻せたはずだった。

 しかし、事態はそうならなかった。そのきっかけは11月7日の代表メンバー発表記者会見の席。ヒディンク監督は、ラトビアに負けるか、引き分けたら、代表監督を辞任すると明言してしまったのだ。ヒディンクいわく、「記者に聞かれたから、正直に答えただけ」とのことだが、ここは本音を隠して「協会に自分の去就を委ねる」と返すのが一般的。ヒディンクの発言に対するオランダでの驚きは大きい。

とてつもない緊張下で迎えるラトビア戦

16日のラトビア戦に敗れたら辞任する意向を示しているヒディンク監督 【写真:ロイター/アフロ】

 ヒディンク就任後の不振によってオランダ代表はすでに大きな緊張が生まれていたが、この「ラトビアに勝てなかったら辞任」発言によって、彼らの緊張は過度に高まった。メキシコ戦はこうして、オランダにとってかなり本気度の高い試合になった。ところが開始早々の8分、オランダはあっさり左サイドバックのイェトロ・ウィレムスがエクトル・エレーラに交わされ、その後のDF陣のチェックも甘く、カルロス・ベラにミドルシュートを決められてしまった。前半はこのまま0−1で終了。ヒディンク就任後、これでオランダは5試合連続、前半をビハインドで終えた。

 イタリアとの親善試合(0−2)では開始10分で2点のビハインドを負った。アイスランド戦でも10分に先制ゴールを決められた。そして今回は8分。「これだけ早い時間帯に失点してしまうと、相手チームとの戦いというより自分たちとの戦いになってしまう」とヒディンクもこぼしていたように、立ち上がりのナイーブさは最近のオランダにとって重石となり、焦りにつながっている。“賢いプレイヤー”として知られるウェズレイ・スナイデルが45分、イブラヒム・アフェライのシュートコースを消すようにフリーランニングしたのは、本当に珍しいことだった。

 そのスナイデルが49分、強烈なミドルシュートを突き刺して1−1にしたのはさすがだったが、それまでにオランダは多くの力を注いでおり、しかもDF陣の守備面での脆さとビルドアップでの脆さはメキシコ相手にカモフラージュできず、62分、69分と続けて失点してしまう。オランダは合計23本ものシュートを放ったが、焦りがシュートの精度不足につながり74分、ダレイ・ブリントのゴールで2−3とするのが精いっぱい。こうしてヒディンク就任後のオランダの戦績は1勝4敗となり、ラトビア戦を目前に「ヒディンクに対するプレッシャーはとてつもなく高まった」と現地では報じられている。

 今回の合宿招集直後、アリエン・ロッベンは「相手チームへのリスペクトを込めて語るけれど、ラトビアは、負けたらヒディンクが辞めるだけではすまない相手。ようは勝てばいいんだ」と語っていた。しかし、今のオランダは自滅しやすく、カウンター型のチームの餌食になりやすく、自信も失っている。またしても開始早々、失点したら……。すでに『開始8分シンドローム』という造語もチラホラ出始めた中、オランダはとてつもない緊張下でラトビア戦を迎える。

「口が滑ったわけではない。前言は撤回しない」。ヒディンクはメキシコ戦後、ラトビアに負けたら退任の意向を曲げなかった。
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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