パンドラに見るマツクニGI馬の雰囲気=エリザベス女王杯で吹くか“二冠”の風
ネコ科の動物のような、しなやかな動き
高野調教師はショウナンパンドラを「ネコ科の動物のよう」と話す 【netkeiba.com】
「装鞍所やパドックでの歩きを見て、贔屓目もあると思いますけど、本当にいい歩きをするなと思いました。この馬はデビュー前からそうなんですけど、関節や股関節の可動域が大きいんです。例えるならネコ科の動物のような、しなやかでいて力強い動きをしますね」
これがショウナンパンドラの、2つ目の才能ではないだろうか。関節の可動域が大きいため、体全体を使ってバネが弾むように前に進んで行く。馬体重以上にその体を大きく見せるのは、この天性のしなやかさによるものだろう。ショウナンパンドラは初のGI参戦にも関わらず、パドックでは堂々と歩き、返し馬でも落ち着きを見せていた。ファンファーレと共に大歓声が起こっても、冷静さを失うことはなかった。
「とにかく、ゲートだけは出てくれと思っていました。ジョッキーに細かい指示はしていないですけど、素晴らしい好スタートを切ってくれて、まずホッとしましたね。うちのもう1頭(ハピネスダンサー)も含めてけっこう先行馬がいて、ハイペースになって。でもショウナンパンドラはちょうどいいスポットに入れて、『これはいいぞ』と、わくわくしながら見ていました」
「そこ行くんかい!」
「正直、『そこ行くんかい!』と思いました(笑)。今まで外からマクるレースが多かったですし、リスクがある中で腹を括ってくれたなと。でも、一度も詰まることなく、加速しながらスーッと行けました。ジョッキー目線で行くと、パーッと前が広がっていい道が見えたんじゃないですかね。直線に入った所で前が壁になりそうだったけど、そこもスルリと抜けてくれて。ここでいい勝負になるなと思いましたけど、外からも来ていましたし、ゴールするまで確信はなかったです」
ヌーヴォレコルトが鋭く迫る中、ショウナンパンドラはクビ差粘って勝利を掴んだ。ショウナンパンドラにとっても、高野友和厩舎にとっても、初めての重賞制覇がGI制覇となったのだ。しかし――この快挙に浸る間もなく、次なる戦い、エリザベス女王杯へ向けての調整が始まった。
調教師になってからは気持ちの持ち方が変わった
オーナーが喜んでくれたという満足感が大きかった 【netkeiba.com】
「もちろんすごく嬉しかったですけど、調教師になってからは気持ちの持ち方が変わったんだと思います。松田国英厩舎で持ち乗り助手をやっていた頃は、みんながみんなの馬を見るというシステムだったので、他の人の担当馬でも、声を出して応援していました。ダイワスカーレットの桜花賞の時は、一番叫んだと思います(笑)。自分が担当していたモンテクリスエスが重賞(ダイヤモンドS)を勝った時には、ゲートから戻って来るバスの中で大はしゃぎしましたから。でも調教師になって、立場が変わりましたし、自然にどのレースも客観的に、冷静に見られるようになったと思います。もちろん助手時代も馬主さんの馬ですけど、今は馬主さんからの大切な預かりものというイメージが強いです」
今回の秋華賞には、ショウナンパンドラと共にハピネスダンサーも出走していた。ショウナンパンドラ勝利後も、調教師として2頭を見守る責任がその表情に表れていたのだろう。
「僕らは技術料を買ってもらって、馬を預けてもらっているわけですから、馬のため、馬主さんのためにという気持ちです。直線はパンドラが抜けて来たのはもちろん見えていましたけど、もう1頭の方が下がっていっていたので、『ああ、下がっちゃったな』と。ハピネスダンサーは何着だったか、確認してから検量に下りて行きました。GIを勝たせてもらいましたけど、自分の手柄という思いは一つもなかったです。GIを勝っておかしくない血統ですし、そういう馬を預けてくれたオーナーの期待に応えられたという、オーナーがとても喜んでくれたという満足感が大きかったですね」