【ラグビー/NTTリーグワン】美しく熱い涙で17年間の現役生活にピリオド。 鉄人・矢富勇毅の思いと魂は、“レヴズの伝統”に<静岡BR vs BL東京>

静岡ブルーレヴズ 矢富勇毅選手 【©ジャパンラグビーリーグワン】

マッチエピソード&記者会見レポート
静岡BR 20–59 BL東京


美しく、そして熱い涙だった。

今季限りで選手生活にピリオドを打つ39歳の矢富勇毅の引退試合でもあった東芝ブレイブルーパス東京との最終節は20対59の完敗だったが、試合後には矢富勇毅の功績を称える引退セレモニーが、13,000人を超えるファンが見守る中で行なわれた。

これまでの足跡を振り返る映像が場内に流されると、矢富勇毅は涙を堪え切れなかった。それでも、自身の挨拶は多少、声を詰まらせながらも何とか乗り切った。しかし、早稲田大学時代とジャパンラグビー トップリーグ時代(ヤマハ発動機ジュビロ)に監督として師事した清宮克幸氏から花束を受け取り、固く抱き合った瞬間、涙腺が完全に崩壊した。

【©ジャパンラグビーリーグワン】

「まだまだやれる」、「40歳までやってほしい」。現役続行を望む声は多かったが、クラブキャップ数150キャップを達成した直後の151試合目を戦い終え、引退を決断した。そこに至った心情については、多くを語らなかったが、度重なるけががあった中で17年間現役生活を続けてきたことは「並大抵のことではなかった」と本音も漏らしていた。

「自分はたぶんリーグワンの中で一番手術している選手ではないかと思います。数えてみたら、左の足首から始まって、両ひざのACL(前十字靭帯)、両肩の脱臼、両手首の手術、顔も両頬の骨折、鼻の骨折を含めて、15回ぐらい手術しているんですよね。その中でも僕を信じて待ち続けてくれた人に対して(ピッチに)戻れたというのは、自分のラグビー人生において大きなハイライトだったと思っています」

11歳下の実弟・矢富洋則も「正直、前十字(靱帯)を2回やって、その年で『辞めるやろ』と思っていたんですよ。でも、辞めずに、11歳離れた僕を(チームメートになるのを)待ってくれて、本当に感謝していますし、尊敬しています」と言う。

それでも、やり続けてきたラグビーに対する情熱は、日ごろの練習から後輩たちに十分伝わっている。2021年からチームのプレイングアドバイザーを務め、今季はその役職名こそなかったが、全体練習後に後輩たちに対する熱心な指導やアドバイスする姿はまったく変わっていなかった。そして、自らのプレーでも情熱を表現する。果敢に突破していく姿勢やトリッキーなプレーで超攻撃的なスクラムハーフ像を確立し、先発した今節でもそのプレーを存分に見せつけた。

最後まで矢富勇毅は「本当にたくさんの人たちに支えられて、ここまでやってこられました。感謝しかないです」という言葉を繰り返した。その姿を見て、まだ在籍2年目ながら10番として矢富勇毅のパスを数多く受けてきた家村健太が「一番号泣していました」とチーム関係者は言う。矢富勇毅が今後コーチとして静岡BRに残る可能性も大いにあり、彼の思いや魂は間違いなく“レヴズ”の伝統の一つとして引き継がれていくはずだ。

(前島芳雄)

静岡ブルーレヴズの藤井雄一郎監督(右)、マロ・ツイタマ バイスキャプテン 【©ジャパンラグビーリーグワン】

静岡ブルーレヴズ
藤井雄一郎監督

「前回の試合からけが人がバタバタと出て、その中で代わりに出た選手も一生懸命頑張りましたけど、優勝を狙うチームとの差が最後は出たなと。私もまだ就任して半年、手探りでこのチームをどういうふうに強化しようか(模索している)ところで、いろいろな苦労を選手はしたと思いますが、仕事しながらやっている選手もいたり、プロ契約の選手もいたり、コンディションの部分で、私も初めての経験だったので、ちょっと練習量が多くなり、けが人が出てしまったのは私自身の反省だと思っています。仕事をしているというのは言い訳にはならないです。

ただ、今シーズンをとおして、私もどういう形で持っていけば選手が良いコンディションで試合ができるのかということも含めて勉強できましたし、来季に向けては結構、手ごたえのあるシーズンだったと。最後はちょっと力尽きましたけれども、途中まではそれなりの戦いができた試合もたくさんありましたし、上位にも何とか食らいついてやっていけるのではないかという感じはしています。しっかり前を向いて、このチームはスーパースターがたくさんいるわけではないので、練習量でその部分を補って、今季はひっくり返せなかった試合を、来季はしっかりひっくり返していきたいと思っています」

――後半にインパクトメンバーをどんどん出していったところで、なかなか相手の守備を崩せなかったところに関してはどう感じていますか?
「なかなか(交代の)タイミングが難しくて、けが人も出たり、バックスもあちこち変えながらだったりで……。もちろん、東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)さんもそこで受けないように、1人に対して3人でタックルが来たり、ショートタックルでもうまく来られました。そのあたりのシステムの整理は来季、やっていかないといけないかなと。あのあたりが若さというか、力でいこうとしているところがあったので、そのあたりは時間を掛ければうまくいくようになるのではないかと思っています」

――ここ2試合、失点が多いのはけが人の影響もあったかと思いますが、ディフェンス面では来季に向けてどんな課題や展望をお持ちでしょうか?
「そうですね。得点も強い相手になれば、おそらく30点は何とか取れても40点は難しいと思うので、やはり失点を抑えることが勝つための一番の課題になってくると思います。もちろん個人のタックルもシステムも含めて、もう1回しっかり整理してやっていかないといけないと思っています」

静岡ブルーレヴズ
マロ・ツイタマ バイスキャプテン

「藤井(雄一郎)監督が言ったように、シーズンをとおしてチームとしてアップダウンがあったシーズンではありました。ただ、その中でも強いチームに対して自分たちがプッシュして(押し切って)勝ち切れるところまで追い詰めることができたことも分かってきたので、来季はそこを踏まえて、プレシーズンからハードワークをし続けて、しっかりとチャレンジしていけるようなチームになりたいと思っています」

――終了間際にトライが取れそうだった場面がありましたが、あそこはどんな状況でしたか?
「一瞬の出来事だったので、いま思うと途中でステップバックで内側に切ることもできたかもしれないですけど、ボディバランスが崩れてしまったので、その瞬間ではそこまでバックアップできなかったです」

――現時点では、確定していませんが、おそらくトライランキングでトップになったと思います(その後タイトルが確定)。そこに関しての感想を聞かせてください。
「自分としては、いまはそこまで考えていないですけど、もちろんそういうタイトルを獲れたらうれしいと思っています。ただ、今日は試合に勝てなかったことで、すごく残念な気持ちですし、来季に向けてチームを手助けできるように、自分としてもどんどん成長していきたいと思っています。そして、トライを取れているのは自分の力だけではなくて、フォワードがしっかりと前で体を張ってハードワークしてくれているおかげで、自分のところにボールが来てトライを取れているだけなので、彼らがしっかりと頑張ってくれたおかげだと思っています」

静岡BR 矢富勇毅選手 【©ジャパンラグビーリーグワン】

静岡ブルーレヴズ
矢富勇毅選手

「本日はありがとうございます。(最終戦を前に)引退を発表して、そういう形にさせていただいたんですけど、自分が思った以上に反響があって、長くやってきたご褒美がいただけたのかなと感じながら過ごしてきました。最後の試合の結果自体は満足できるものではなかったんですけど、たくさんのレヴニスタのみなさんに見守られる中でプレーできたことを本当に誇りに思います。ラストの試合で勝って終わりたかったんですけど、すごく楽しい試合だったかなと思っています。先ほども言ったんですけど、もう本当に感謝しかなくて、いろいろなことがあったときでも、みなさんが見捨てずに温かい声を掛けていただいたからこそ、ここまでできたかなというふうに思いますし、終わり方としては自分自身すごく良かったんじゃないかなと感じているので、すごく良いラグビー人生だったなと思っています。本当にありがとうございました」

――以前から40歳まではやると聞いていましたし、実際に今日のパフォーマンスを見ても全然引退する必要はないなと思ったんですけど、なぜ辞めることにしたのか聞かせていただけますか?
「そうですね。もちろん40歳までやりたいなという思いもありましたし、自分自身、正直なことを言えば体も動いている感触もあったので……。でも、こういうことってタイミングがすごくありまして、僕が中学からラグビーを始めて、高校、大学といろいろな決断をするときに、本当に素晴らしい人たちとの出会いとアドバイスがあった中で、今まで選択してきました。今回も一緒で、元気よく40歳まで続けるとか、まだまだできるなと思うこともあった中で、それでも引退をして、次のステージへ進む決断、その背中を押してくれた人がいたというのが一番大きな理由です。その後押しがあったから、自分がこういう決断ができたなというところがあるので、その決断に対しては全然後悔もしてないですし、本当にいい人たちに巡り会えたなと感じています。そういったところで決断しました」

――次のステージというのは、どういうところへ進まれるのでしょうか?
「例えば指導者、教える立場といったところに進むというのが、自分はもともと、そこを目標にはしていたので、タイミングも含めて正式に決定したら、みなさんにはしっかりお答えしたいなと考えています。僕が今まで培ってきたこと、経験したことを次の世代の人たちにしっかりと教えられるような道に進んでいきたいなとは思っています」

――背中を押してくれた人というのは花束をくれた人(恩師の清宮克幸氏)ですか。
「いえ、花束をくれた人はもっといろいろなことを、僕がここまできたことに大きな影響を与えてくれた人です。別に隠す必要もないし、藤井(雄一郎監督)さんは僕の中ですごく大きな存在で、いろいろなことを話して、いろいろな決断をするために背中を押してくれた人だなと思います。非常に感謝していますし、素晴らしい人の下で最後、終われたかなと思っています」

東芝ブレイブルーパス東京のトッド・ブラックアダー ヘッドコーチ(右)、リーチ マイケル キャプテン 【©ジャパンラグビーリーグワン】

東芝ブレイブルーパス東京
トッド・ブラックアダ― ヘッドコーチ

「まず、このヤマハスタジアムに13,000人以上の観客が集まった素晴らしい状況で試合ができたことが本当に良かったと思います。矢富勇毅選手が引退されるということで、かなりタフなゲームになることは想像していました。やはり想像していたとおり、静岡ブルーレヴズはプレーをしっかりと速いペースでやってきました。ここにいるリーチ マイケル選手を始め、自分たちがしっかりと集中を切らすことなくプレーを実行できていたときには、非常に良いプレーができていると感じました。セットピースでもしっかりとできた部分というのは、自分としてもうれしく思います。そして、一番うれしかったのは、規律の部分を何とか立て直して、試合の中で勢いを取り戻せたこと。(リーグ戦の)最後を良い形で終われて、自信も持てたということで非常にうれしく思います」

――プレーオフトーナメントに向けて今日の試合で収穫になったこと、課題になったことを教えていただけますか?
「まさにリーチと同感です。本当に毎試合素晴らしい学びを得ていると感じています。そして素晴らしい経験を積み上げていく。セットピースで相手のプレッシャーに耐えられたという意味でも、すごく良かったと思います。ディフェンスに関しては、この試合だけではなく、直近の2試合で良いところが見せられたと思っています。全体的に見ても、信念の部分というのは非常に良くもつことができていると思います。選手たちがお互いを信じながらハードワークができているなと、本当に良い確信をもつことができました」

東芝ブレイブルーパス東京
リーチ マイケル キャプテン

「矢富勇毅選手、長い現役生活、本当にお疲れさまでした。学生のときからずっと矢富(勇毅)さんのプレーを見ていて本当に楽しかったです。そして引退試合で一緒にピッチに出られたことがすごく良い思い出になると思います。

試合に関しては、最初からBL東京がプレッシャーを受けて、それでも80分間戦い続けたことは自信になると思います。反省点は規律の部分です。試合前から規律のところも大事にしようと言いながら、ペナルティがすごく多い試合になったと思います。セミファイル(プレーオフトーナメント準決勝)に向けてもう1回規律の部分を見直して、準備していきたいと思います」

――プレーオフトーナメントに向けて今日の試合で収穫になったこと、課題になったことを教えてください。
「ペナルティの痛さというのは、この試合だけではなくシーズンをとおして、ですね……。この試合でも意識してこんな結果になってしまったから、もう1回見直して、もう1回クリアにしていきたいと思います。良かったことは、試合中のモメンタムをコントロールすることが、よくできたかなと思っています。チームが同じ方向に向けたことが良かったと思っています」

――矢富勇毅選手との思い出やエピソードは何かありますか?
「2008年ぐらいですかね、たぶんジャパンA(日本代表)だった気がしますが、一緒に合宿に行きました。僕からしたら矢富(勇毅)さんは本当にスターだったんですね。僕が大学1年生、2年生ぐらいなのにそれでも本当に良くしてくれたり、携帯番号も交換して、それ以来、会ったときはずっとフレンドリーに話してくれた、本当にいい方だなと思いました」

――後半、静岡BRがインパクトメンバーを多く出してきたことで、意識や対策したのはどんなところですか?
「対策はしていて、インパクトメンバーもすごく大きくて、あまりパスをしないと分かっていたから、『彼らがボールを持ったらとにかくダブルで(タックルに)行きましょう』と話していました。そこは、そのとおりにできたと思います。交代選手に押し返されたら本当にチームにエナジーが足りなくなるので、よくできたと思います」

――先ほどから規律のことをおっしゃっていますが、途中から少しずつペナルティを減らせているように見えました。
「とにかくもうペナルティしないでいこうと。ペナルティの種類が同じではないので、ちょっと見直さないといけないんですが、チョークタックル(相手をボールごと抱え込んで倒さないタックル。そのままモールに持ち込んでターンオーバーを狙うことが多い)のあとの判断をもう少し磨かないといけないと思います。モールなのかタックルなのかをよく聞いてから判断しないといけないなと思います」
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著者プロフィール

ジャパンラグビー リーグワンは、「あなたの街から、世界最高をつくろう」をビジョンに掲げ、前身であるジャパンラグビー トップリーグを受け継ぐ形で、2022年1月に開幕した日本国内最高峰のラグビー大会です。ラグビーワールドカップ2023を控え、セカンドシーズンとなるリーグワン全23チームの熱戦をご期待ください。

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