小久保裕紀が語る、侍ジャパンの“重み” 日米野球で感じてほしい「水準」

中島大輔

王監督から受けた影響

MLBオールスターチームを迎える侍ジャパン。世界一奪回に向けて、小久保監督が考える野球とは? 【写真は共同】

――今回の日米野球ではどんな話をしますか?

 自分の経験を振り返ると、若い頃に王貞治監督からしつけをしていただいたことで良い影響がありました。王監督にはいつも、「お前のやっていることを若い選手はすべて見ている。自分の状態が悪い時、若手に悪い影響を与えてしまうような選手にはなるな」と言われました。「長嶋(茂雄)さんと俺はいつも見られているという意識でプレーしていた。だから俺たちはオープン戦でも休まずに出続けた」と。

――侍ジャパンのメンバーも、周囲から特別な目で見られる立場だと思います。

 ペナントレースを1年間戦った後、11月の代表戦がしんどいのは百も承知です。ただ、押しも押されもせぬ日本の中心選手であるなら、代表戦に出るのは当然求められること。日本球界が結束して侍ジャパンをつくって、12Uからプロ、女子と8世代で同じユニホームを着て、世界一を目指しています。日本球界の裾野を広げて、「ひとつになろう」と始まっている。そのトップチームに選ばれた選手たちは、子どもたちの手本にならないといけない。そういう話は伝えようと思います。

日本とメジャーをどんどん比べてほしい

ファンの人には「日本のトップ選手とメジャーの選手をどんどん比べてほしい」と話す 【スポーツナビ】

――今年の日米野球にはカノ、プイグなどバリバリのメジャーリーガーが来ます。侍ジャパンのテーマは?

 走塁の意識の高さをずっと持ち続けるチームでありたいと思っています。「走塁にスランプはない」という言葉がありますが、スチール(盗塁)にはスランプがある。でも次の塁を盗むという意識は、足が速い、遅いに関係なく、持ち続けられるものです。今回の日本シリーズを見ていてもそう思いました。ホークスの選手は、走塁の意識が高かった。厳しい試合では最後、スキを突いて1点を狙いにいくという勝負になるので、常に狙いにいける集団にしていかないといけない。

――今回の日米野球で興味深いのは、キューバ出身のプイグ、ドミニカ共和国のカノやカルロス・サンタナ(インディアンス)、ベネズエラのアルシデス・エスコバル(ロイヤルズ)、そして米国のベン・ゾブリスト(レイズ)ら多国籍軍と対戦することです。

 日本のトップ選手とメジャーの選手が同じグラウンドに立つので、差を比べやすいと思います。ファンの人にはどんどん比べてほしい。「ここは日本の方が上じゃない?」ということも出てくると思います。野茂英雄さんから始まって、いまは黒田博樹、田中将大(ともにヤンキース)、岩隈久志(マリナーズ)、ダルビッシュ有(レンジャーズ)。和田毅(カブス)も今季最後は良かったですが、日本で活躍していた選手が向こうでも活躍している。「じゃあ、いまの日本のトップ選手たちはどうなんだろう?」という見方にもなると思います。

中田は次なる長距離砲の成功の尺度

――投手がメジャーで通用することは、先人たちが証明してきました。一方、打者はまだ苦しんでいる部分もあります。

 柳田悠岐(福岡ソフトバンク)のスイングスピードと豪快な空振りは、向こうの印象に残るはずです。メジャーのボールでどれだけできるか、私も楽しみにしている。日本でやっているのと、まったく同じようなプレースタイルでやってほしいですね。

――ほかの選手については?

 セカンドの菊地涼介(広島)の守備は向こうでもトップクラスだと思います。私はプロ3年目に日米野球に出場して、「力対力ではなかなか勝てないな」と思ってしまいました。そういった意味で中田翔(北海道日本ハム)がどれだけやれるのか、ちゃんと見ておきたい。メジャーに行って、長打で成功したのは松井秀喜くらいです。中田を通じて、それに続く選手がいるのかという尺度になると思う。

――選手たちにとっても、自分の肌で計れるのは何より大きいですよね。

 試合に出て、感じたことは、すごい財産になります。僕はその機会があったおかげで、自分に求める水準が上がりました。おそらく今回の日米野球で、そう感じる選手は多いと思います。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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